寺の花ものがたり(40) 石山寺(大津市)梅=2月中旬~3月下旬
水がぬるみ、瀬田川では、カヌーが水面を滑っていた。琵琶湖の対岸の山はまだ、雪をいただいている。そんな時期に、梅が山内を紅白に染め始める。
「山門を閉めると、川からの空気が止まり、山から空気で冷たい。梅も遅めに咲く」。座主(ざす)の鷲尾遍隆さんは、山岳宗教の趣もある立地を説明する。
梅園は3つあり、木の数は500~600本を誇る。先代で父の隆輝さんが1974年に、寺山の梅を集めて薫(においのその)をつくった。
名前は、故事に由来する。真言宗に変わり、3代目の座主は菅原道真(すがはらみちざね)の孫、淳祐内供(しゅんにゅうないく)だった。若いころ、師に伴われて高野山に登り、空海の廟(びょう)に参った。空海のひざに触れると、何とも言えない香りが移って消えなかったという。
94年に2つ目の東風苑(こちのその)を整備した。道真の「東風吹かば匂(にお)ひおこせよ梅の花」の歌にちなむ。3つ目で、若い木を育てている。
1000本の桜、1000本の紅葉。四季折々の花に恵まれる。しかし、明治時代はR[廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)のあおりで、荒れた時期もあったと言う。「おじぎの観音、と呼ばれていた。参拝者は山門の外で本尊に手を合わせ、おじぎをするだけ。中は草ぼうぼうだったから」
「お参りの人に気分よく帰ってもらうには、お前の説教を聞くより、花を見てもらう方がいい」。先代にそんな冗談を言われたと、遍隆さんは笑う。
「木や花は手間がかかるものだが、先代が目指したものをつぶすわけにはいかない。骨に肉をつけ、顔をつけていくのが私の役目だと思う」。だから、「寺山もできる限り開発しない」と決めている。(梶川伸)
◇石山寺◇
大津市石山寺1。077-537-0013。京阪石山寺駅から徒歩10分。入山有料。奈良時代、良弁(ろうべん)が如意輪観音を安置したことに始まる。本堂や多宝塔などは国宝。紫式部、更級(さらしな)日記を書いた藤原孝標の女(むすめ)など文人も多く訪れた。西国観音霊場十三番。
=2005年2月22日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況変わってガいる可能性もあるのでご了承ください)2016.01.19
更新日時 2016/01/19