このエントリーをはてなブックマークに追加

寺の花ものがたり(37) 安倍文殊院(奈良県桜井市)のパンジー

2005年1月19日撮影

 境内の小山は、室町時代の陰陽師(おんみょうじ)、安倍晴明が天文観測をしたという場所という。そこから見下ろすと、エトをモチーフにした巨大な絵馬が、地上に浮かび上がっている。
 今年は酉(とり)。雄鶏(おんどり)が1羽、ひよこが2羽。さらに、文殊さんらしく「合格」の文字と、晴明の象徴でもある星型(五芒星=ごぼうせい)。8000株のパンジーで描かれている。
 花の絵馬は、1995年の子(ね=ネズミ)年に始めた。「うちは祈願寺。いろいろな思いの人が訪れる。花を見て怒る人はおらんので、年中、花を咲かせたい」。そんな思いが貫主(住職)の植田俊應さんにはあった。花の少ない冬は、桜の時期まで長持ちするパンジーに行き着いた。
 25メートル×20メートルの大きなキャンバスに見立て、縦横50センチ刻みで糸を張る。図面にも線を引き、図柄をだいたい4色の花で土の上に写していく。「プロを入れたくない」と言い、寺の関係者総出の手作り作品である。
 デザインは植田さんが考えるのかと思ったら、「図画は下手くそで」と笑う。家族や寺の職員が原画を考える。今回はハプニングがあった。赤いとさかの鶏が完成した。子どもが見て、「アヒル」と言った。各所の絵馬を参考にすると、のどの部分にも赤いものがある。2日間かけて手直しし、やっと鶏になった。
 「若い人も寺に来てほしい。公園の延長の感覚でもいい」。合格の文字は、受験生に見てもらうためだ。絵馬の場所は、秋にはR[秋桜、こす、も、す]Rの迷路に変え、子どもに楽しんでもらう。だれもが訪れやすい寺にする。それを「宗教界もバリアフリーが必要」と表現した。(梶川伸)

◇安倍文殊院◇
 奈良県桜井市安部645。0744-43-0002。桜井駅からバスで安倍文殊院前下車(便少ない)。徒歩では駅から30分。境内自由。飛鳥時代に安倍倉梯麻呂(あべのくらはしまろ)が氏寺として建立。本尊は文殊菩薩。拝観有料。
=2005年2月1日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2015.12.03

安倍晴明

更新日時 2015/12/05


関連地図情報

関連リンク