心にしみる一言(47) みんなでビア樽ポルカを踊ろう
◇一言◇
みんなでビア樽(たる)ポルカを踊ろう
◇本文◇
10代の若い友人が、夏にもかかわらず、長そでシャツを着ていた。理由を尋ねると、左のシャツのそでをまくり上げた。見ると、手首には何本かの、刃物で切った薄い跡が走っていた。
彼を連れてシャンソニエに行った。取材で知った女性が店のママで、飲みながら歌う。彼女が自殺を図った時のことを、聞かしてもらっていた。
「こんなしょうもないことをするんですよ」。彼女に刃物の跡を示した。彼女は何もしゃべらずに、また客の応対をし、歌を歌った。
しばらくして、彼女が上記の提案をした。客がみんなで肩を組み、「飲めや歌え…」の歌声に合わせ、ラインダンスのように足を振り上げた。それだけのことだった。店を出る時、彼は「ありがとうございました」と、彼女に頭を下げた。(梶川伸)
=2002年4月19日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2015.11.19
更新日時 2015/11/19