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寺の花ものがたり(35) 恵心院(京都府宇治市)水仙=12月上旬~2月中旬

2004年12月27日撮影

 小さな山門まで、参道の水仙の淡い香りが導く。境内に入ると、所狭しと草木が覆い、縁取るように水仙の帯が続く。数は多い。
 まず、匂(にお)い水仙が咲く。昨年の大みそかの雪で、たくさん倒れてしまった。住職の福若亮恵さんは「よく咲いて喜んでいたのに、14~15センチも積もった」と残念がる。しかし、花は喇(らっぱ)水仙、八重水仙、鈴蘭(すずらん)水仙と引き継がれていく。
 花の寺づくりは、花好きの妻芙●(サンズイに見)子=ふみこさんと50年がかりで、こつこつとやってきた。先代の父は、「生きているものを切るのは可愛そう」と考える人だった。その代わり、境内は草ぼうぼう。「外から見えないもんだから、アベックが中に入って」と、当時を思い出して笑う。
 水仙は点在していたものをまとめ、株分けして増やした。紫陽花(あじさい)、山吹、桜、山野草と花園は充実していった。芙●子さんが出かけると、土産は決まって珍しい花だった。種類はゆうに100を超える。
 楽しみで育てた草花だったが、「見てもらい、それが癒しにもなれば」との思いも強まった。亮恵さんは境内を巡り、白に紫の混じる石楠花(しゃくなげ)、福島県の三春滝桜、ブラシの木、ピンクの夏椿などを楽しそうに説明した。水仙と同時に、三椏(みつまた)、蝋梅(ろうばい)が花をつけ、真弓の赤い実が弾けていた。
 「年中花が咲いているようにしたい。欲張りなんです」。萩の後、水仙までのわずかな期間を除けば、花は絶えない。剪定(せんてい)を「散髪」と言い、「ご機嫌の悪そうな株に水をやる」などと語る。植物を人間のように見ている。(梶川伸)

◇恵心院◇
 京都市宇治市宇治山田67。0774-21-3942。京阪宇治駅から徒歩10分。境内自由。平安時代に空海が開基したと伝えられる。当初は龍泉寺と称された。戦火で焼失した後、1005年に恵心僧都(源信)によって再興された。本尊は十一面観音。
=2015年1月18日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることも考えられますので、ご了承ください)2015.11.21

京阪宇治駅

更新日時 2015/11/21


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