寺の花ものがたり(34) 長谷寺(奈良県桜井市)寒牡丹=12月下旬~2月中旬
04年の新年は長谷寺で迎えた。山門から399段の廻廊(かいろう)が続く。観音万燈会(かんのんまんとうえ)の明かりを頼りに登っていく。本堂で午前0時に、十一面観音の前の幕が下りる。
灯篭(とうろう)は廻廊わきの寒牡丹(かんぼたん)を、ほんのりと浮かび上がらせる。竹を切って作った支柱にわら頭巾が被せられ、その下で花が身を縮めている。夜の寒牡丹は、三が日だけの楽しみである。
4月半ばから5月初めにかけて咲くあでやかな牡丹は、150種7000株を誇る。「学問の寺だった。修行僧を養うために、牡丹を栽培した。根は高価な漢方の胃薬になる」。教務執事の喜多昭賢さんはいわれを説明する。
「ところが、花が美しい。牡丹を目当てにお参りに来る人が多くなった。根を売らなくても、それが収入につながった」。牡丹の寺となったいきさつを、そう解釈している。
ただし、ジレンマもある。「朝は40人の僧が拝んでいる。本来は祈祷(きとう)をしてお願いをする寺なのに、牡丹にお株を奪われてしまった感がある」
牡丹の寺である以上、ゴールデンウイークに咲かせたいと思う。花は大きいが、ひ弱なので、支えをつけるなど手をかける。「過保護な花」だと言う。
主役の牡丹に比べれば、寒牡丹はわずか30株ほどだから、つつましく咲いていると言える。背も低く、花も小さい。期間中、ぽつぽつと咲く。
冬牡丹なるものを植えたことがある。葉も花も大きい。しかし、どうも寒い時期にはそぐわなかった。「寒さの中で耐えている姿であってこそ寒牡丹」だと思っている。(梶川伸)
◇長谷寺◇
奈良県桜井市初瀬731。0744-47-7001。近鉄長谷寺駅から徒歩15分。入山有料。道明上人が天武天皇のために千仏多宝仏塔を安置し、徳道上人が聖武天皇の勅命で十一面観音をまつったのが起こりと伝えられる。西国観音霊場八番。
=2004年12月21日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもありますので、ご了承ください)2015.1.14
更新日時 2015/11/14