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寺の花ものがたり(29)音羽山観音寺(奈良県桜井市)お葉つき銀杏の黄葉=11月中旬

2004年11月3日撮影

 川の水音を耳にして、急勾配の山道を登る。約100メートルごとに置かれた江戸時代の丁石を数え、十七丁石で質素な尼寺に着く。
 息を整えて見上ると、お葉つき銀杏(いちょう)がそびえている。樹齢は600年以上。奈良県の調査で高さは25メートルだが、住職の後藤密栄さんは子どもの成長を見ているような口ぶりで、「もっと伸びている」と語る。
 この大木にはまれに、葉の裏に実(ギンナン)ができ、葉と一緒に落ちてくる。他の普通の実よりは小さく、形も不揃いだ。
 寺も後藤さんも、銀杏と一心同体のような仲の良さがある。本堂の縁側は、この木の一部で造られた。お葉つき銀杏の実はお守りに入れる。普通の実は「食べさせていただき活力になる」。1月17日の初観音では、ギンナンおかゆとなる。
 落ち葉は、境内を埋める。「地面一杯に黄色になると、あたりが明るくなる」。掃き清めるのは、全部の葉が落ちてからと決めている。集めた葉は木の根元に集め、土に戻す。根が露出するのを防ぐ役割も果たす。「少しでも長生きをしてもらいたい」。そんな思いが込もっている。
 お昼に、自家栽培のキノコを使った炊き込みご飯と汁をいただいた。精進料理の修業もした。恐縮すると、お接待は、この寺では当たり前なのだという。
 気安さに甘えながら、銀杏への思いを聞いた。木に声をかけながら遊ぶそうだ。梅雨のころに実の赤ちゃんが雨で落とされると、「ギンナンができなくなっちゃうよ」。楽しみは、誰も踏んでいない落ち葉の上を歩くこと。気持ちが洗われ、思わず「うわー、きれい」と声が出る。(梶川伸)

◇音羽山観音寺(おとわやまかんのんじ)◇
 奈良県桜井市南音羽832。0744-46-0944。桜井駅から談山神社行きバスで下居(おりい)下車、健脚で40分。参拝自由。天平勝宝元(749)年創建と伝えられる。本尊は千手千眼十一面観音。眼病に効く観音として信仰を集めている。
=2004年11月29日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性があるので、ご了承ください)2015.10.10

初観音 ギンナンおかゆ

更新日時 2015/10/10


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