寺の花ものがたり(28) 圓徳院(京都市東山区)石蕗=10月下旬~11月上旬
道路を折れると長屋門があり、本堂への入り口の唐門までの間に、石蕗(つわぶき)が咲いている。葉は蕗のようだが、菊の仲間である。数は多くなく、黄色の花が、柔らかい苔(こけ)とほどよいバランスを取り、しっとりとした空間を演出する。
住職の後藤典生さんは、父で先代住職の明道さんが、なぜこの場所に植えたかを考える。「唐門の中は極楽を意味する。手前は人間世界。石蕗は人生を表しているのではないか」
咲き始めの青春期、満開の壮年期を過ぎ、やがて散る。「咲いて2週間ほど。禅宗の僧としては、盛りを過ぎた後がいい。最後は峻烈(しゅんれつ)なにおいを出し、どす黒くなって、きたなく死んでいく」
散り際のいい桜とは対照的だ。みじめにも感じる最後だが、好きだと言う。「そんな人生もある」と。
決して華やかな花ではなく、「隠逸花(いんいつか)」と呼ばれる菊に結びつける。「隠逸」を広辞苑でひくと、「世俗をのがれ(山奥などに)隠れること。その人」と書いてある。典生さんは「陰で支えるような花。愛していることや、友情を相手に感じさせない人、しのぶ心にも通じる」と解釈する。
「言ってみれば、石蕗は雑草。そんなもん、と思った人もいるだろうが、苔や石畳とマッチして、共感を呼んだ」。先代の狙いが見事に成功したと見る。だから数を増やそうとも、減らそうとも思わない。ほとんど、手も入れない。
詠んだ句を教えてもらった。「夢去りしされど香りなお芳しい」。少し寂しげだが、それでいてきりりとしている。石蕗の居住まいである。(梶川伸)
◇圓徳院◇
京都市東山区高台寺下河原町530。075-525-0101。京阪四条駅から徒歩15分。豊臣秀吉の没後、妻ねねは高台寺を建立し、山内に住んだのが圓徳院の起こり。北庭は伏見城の化粧御殿の前庭を移したもので、国の名勝。拝観有料。
=2004年11月9日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もあります。ご了承ください。2015.09.29
更新日時 2015/09/29