寺の花ものがたり(27) 金剛寺(奈良県五條市)小菊=10月下旬~11月上旬
牡丹(ぼたん)で知られる寺はこの時期、小菊で飾られる。11月3日に、菊会式(きくえしき)と呼ばれる法要があり、小菊まつりを繰り広げるからだ。
「牡丹の春はうきうきとしてにぎやか。秋は落ち着いていて厳か」。住職の藤原覚盛さんは、春と秋の雰囲気の違いを語る。
カヤぶきの庫裏の部屋に緋毛氈(ひもうせん)が敷かれている。その上に座り、縁の外を眺める。江戸時代・元禄(げんろく)に造られた枯山水の庭が広がる。
庭の前の玉砂利に、70~80の小菊の鉢が並ぶ。黄、白、赤、ピンク。菊会式前後だけの彩りである。境内で大事に育てた菊と、信者が丹精込めた懸崖(けんがい)が調和する。懸崖のなだらかな曲線は、優美さも演出する。
会式は、本尊の薬師如来の周りを菊で包み、無病息災を願う。中国の故事「菊慈童」に由来する。魏(ぎ)の時代に、700歳ながら、童子のような若い男がいた。菊を枕にして眠り、菊の葉に観音経の一節を書き、葉からしたたり落ちる菊酒を飲んで、不老と長寿を得たという。会式の日には、菊酒が用意される。
薬草として境内にあった牡丹と菊を、先代住職の覚深さんと妻教順さんが二人三脚で増やした。先代亡き後は、教順さんが中心に世話をする。その様子を、覚盛さんは「子どもを育てるように」と表現する。
「黄緑の菊は参拝客に『珍しい』と喜ばれる。早く咲かせて見てもらおうと、日当たりのいい場所を求めて移していく。花にしょっちゅう声をかける」
そんなの話を聞き、花に顔を寄せて「頑張りや。栄養あるもんをあげる」と語りかける姿を思い浮かべた。(梶川伸)
◇金剛寺◇
奈良県五條市野原西3。0747-23-2185。JR五条駅からバスで金剛寺下車。入山有料。平安時代、平重盛の創建と伝えられる。関西花の寺霊場第二十三番。牡丹園に100種1500株があり、4月下旬から5月下旬まで開園する。
=2004年11月2日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性があります。ご了承ください2015.09.21
更新日時 2015/09/21