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寺の花ものがたり(26) 宗蓮寺(京都市北区)貴船菊=10月上旬~下旬

2004年10月13日撮影

 京都・高雄(たかお)を抜け、周山街道を清滝川沿いにさかのぼる。北山杉の里に入り、樹齢500年の台杉に見とれる。
 そんな道筋を楽しんで、参道へと曲がると、赤紫と白の花が出迎える。杉苔(すぎごけ)が生えた狭い境内も、2色の花が競い合う。
 一般には秋明菊(しゅうめいぎく)と言う。しかし、住職の正路真匡(しょうじしんきょう)さんは「京都では貴船菊(きぶねぎく)」と、名前にこだわる。貴船神社の周辺に自生していたので、こう呼ばれるからだ。
 「貴船菊なら八重でないといかん」。原種は八重で、一重の花は園芸種である。言葉通り、大半は八重の花びらをつけている。キンポウゲ科の花だが、八重でこそ「菊」と称されると。
 台杉を使った庭を作った。貴船菊はもとから少しはあった。30年ほど前、二つの組み合わせを見た詩人が、増やすことを勧めた。あちこちで八重の株を譲り受けた。「宿根草なので根が走る」。別の所から出た株を移植もし、庭として整備した。参道、境内を合わせて400株にもなった。
 肥料を調節して、背丈を60700センチに揃える。9月に入ると、真竹の枝で添え木をする。台風などの風で倒れないように気遣ながら。
 花を求めて人が訪れる。「観光の寺ではないので、駐車場もトイレのない」。それが悩みらしい。
 とっておきの部屋で話を聞いた。「和風ガーデニングのつもりでいる。お参りの人に、心洗われる気持ちで帰ってほしいと思って」
 障子を開けると、川の向こうに北山杉の山。手前に、葉の小さな高雄楓(かえで)と、桜の古木。風に鳴る葉と、沢の水音が、サワサワと響き合うだけの静けさの中だった。(梶川伸)

◇宗蓮寺(そうれんじ)◇
 京都市北区中川北山町214。075-406-2701。京都駅から周山行きバスで山城中川下車、徒歩10分。室町時代、円誉上人の開創。猿を可愛がり、首に「南無阿弥陀仏」の札をつけた。猟師が札を見て射るのをやめ、弟子になった逸話がある。
=2004年10月19日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2015.

秋明菊

更新日時 2015/09/09


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