心にしみる一言(38) あの子の一部と思って、香りをかでみる
◇一言◇
あの子の一部と思って、香りをかでみる
◇本文
「お母さんにお土産買ったんよ。あした日本に向かうけんね」。愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」に乗っていた野本勝也さん(当時17歳)は、家に電話を入れた。えひめ丸はハワイ沖で、米国の原子力潜水艦に衝突されて沈んだ。母明子さんが聞いた勝也さんの最後の声だった。
土産は香水のミニチュアセットと、父へのライターだった。船で同室だった級友の荷物の中にあった。救助された級友は長い入院の後、昨年の大みそかになって、やっと届けることができた。
たんすの上の遺影の前に、土産が大事に置いてある。形見はそれ以外にほとんどない。
明子さんは時折、香水の瓶を開け、形見の香りに包まれてみる。「あの子の一部だと思って」。しかし、使うことはない。「もったいなくて」(梶川伸)=2002年2月16日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2015.09.04
更新日時 2015/09/04