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寺の花ものがたり(24) 般若寺(奈良市)秋桜=(9月中旬~10月中旬)

2014年10月14日撮影

 色を落とした本堂を背景に、柔らかな色調の花が風に揺れる。優しい顔の石仏が一列に並んで、その穏やかな様を見ている。10万本の秋桜(こすもす)は、奈良の秋の風物詩の一つになった。
 住職の工藤良任さんは、苦労と苦心を重ねた秋の演出家と言える。
 「子どものころ、かくれんぼをすると、絶対見つからなかった。草に覆われ、松の大木があった」。寺の復興は、先代住職と共同作業の開墾から始まった。
 住職を継いだのは24歳。「クワとスコップで土を起こしたので、切り傷だらけ」と言って、手を見せる。
 江戸時代は4月25日の文殊会(もんじゅえ)のころ、境内は山吹で黄一色だったらしい。まず、山吹を意識的に植えていった。
 秋桜は自然に生えていたものの、目立つほどではなかった。ところが、住職になって4、5年目に、一斉に花をつけた。「土地の相性がよかったのだろう」と考えている。
 30年がたつ。最初は種をまいた。しかし、草に負ける。いまは、苗を育てて植える。「貧乏寺なので、庭師を雇うわけにはいかない」。家族の手作業である。
 しかし、10万本は並大抵の数ではない。「6月から8月にかけて、夜明けとともに植え始め、日が昇ったら打ち止め」。気が遠くなるような努力を重ねて、秋の色を織り成す。
 「コスモスには、『宇宙』のほかに、『調和』という意味がある。秋桜は自然のままだと、赤、白、ピンクの3色の花が、調和されて咲く。勝ち負けはない」
 勝ち組、負け組が当たり前のように言われる時期に、ほっとする話も聞かしてもらった。(梶川伸)

◇般若寺◇
 奈良市般若寺221。0742-22-6287。近鉄奈良駅から青山住宅行きバスで般若寺下車。拝観有料。飛鳥時代、高句麗(こうくり)僧によって開創。本尊の文殊菩薩や楼門、十三重石塔など、国宝や重文が多い。関西花の寺霊場第十七番。
=2004年10月5日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもありえます。ご了承ください2015.08.25

般若寺

更新日時 2015/08/25


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