寺の花ものがたり(23) 大乗寺(京都市山科区)の酔芙蓉=9月中旬~10月上旬
ささやか山門をくぐると、小さな本堂がある。その横の、山の斜面にへばりついたようなスペースに、酔芙蓉(すいふよう)の道ができている。その数、1300本。背が高いので、トンネルと言った方がいいかもしれない。
蚊取り線香がたかれ、うちわが用意してある。手作り然として、気取らないところが好ましい。住職の岡澤海宣さんは「檀家(だんか)は4軒。見事な貧乏寺」と笑うのだが。
本能寺(京都市)の執事長だった岡澤さんが、大乗寺の住職になったのは1992年の暮だった。寺は草に覆われていた。弟子を送り込んでみたこともあったが、「お化けが出そう」と言って、長続きしなかったという。そこで、骨を埋めるつもりで移り住んだ。
妻で副住職の妙宣さんと2人での復興作業が始まった。「ツルハシ1本で開墾(かいこん)した。倒れかかっていた山門を、ジャッキを使って起こした」
「近所の人にさえ知られていなかった」。そんな寺に、遠くからも参拝客が来るようになったのは、酔芙蓉のおかげだ。
岡澤さんは詩吟の会を主宰する。弟子から酔芙蓉を譲り受けた。「芙蓉は1日花で、無常をさとす花でもある。酔芙蓉は、朝は白く咲き、次第にピンクに変わり、夕方には赤くなってしぼみ、翌日に散る」。酒でほんのりと紅をさした乙女にも例えられる酔芙蓉。寺おこしをこの花に託し、挿し木で増やしていった。
近くの人も、参拝客の案内をするようになった。自宅でも育てる女性もいる。「酔芙蓉の街にしたい」と意気込んで。酔芙蓉は、近所の人たちのほおも染め始めたようだ。(梶川伸)
◇大乗寺◇
京都市山科区北花山大峰町38。075-591-5488。京都市営地下鉄東西線御陵(みささぎ)駅から徒歩10分。駅に寺までの地図が用意してある。駐車場なし。境内自由。期間限定で、酔芙蓉まんじゅうと抹茶のセット(有料)あり。
=2004年0月21日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性があるので、ご了承ください)2015.08.12
更新日時 2015/08/12