寺の花ものがたり(25) 帯解寺(奈良市)野紺菊=9月下旬~11月上旬
1992年11月のことだった。倉本堯慧住職の妻京子さんは、毎日新聞のコラム「野の花に親しむ」を見て、目を見張った。オビトケコンギク(帯解け紺菊)が取り上げられている。「寺と同じ名前の花があるなんて」
さっそく毎日新聞に問い合わせ、筆者の園芸研究家、高橋勝雄さん(横浜市)に電話をかけた。不思議な縁を感じた高橋さんは、2株を寺に送った。
野紺菊の一種の、小さな青紫の花だ。「可愛い花。ご縁だと思って、増やしていった」と京子さんは言う。境内にある十三重の石塔を囲むように植えていった。隣りの大和郡山市に住む高橋さんの教え子が苗を持参し、一緒に移植したこともある。今では野紺菊に混じり、「秋の花」として定着し、寺の案内に載せるまでになった。
高橋さんによると、「帯解け」というなまめかしい名前は、花びらが名古屋帯を解いたように、スプーンに似た形をしているてことに由来するという。
寺は安産祈願の女性の信仰を集める。寺の名前の方は、腹帯が安らかに解ける意味が込められている。なまめかしさとは程遠いが、文字によって、寺と花と結びついたところが面白い。
「妊婦さんがみえた時に、心なごむものを」と、季節の花を育ててきた。そんな思いがあればこそ、帯解け紺菊も寺の花になったに違いない。
花が結んだ交流は続いている。高橋さんの教え子が、咲き誇る花を写真に撮って送り、健在ぶりを報告したこともある。高橋さんも、いつの日か帯解寺の帯解紺菊に会いたいと思っている。(梶川伸)
◇帯解寺(おびとけでら)
奈良市今市町734。0742-61-・3861。JR帯解駅から徒歩5分。境内自由。文徳天皇の皇后は子どもに恵まれなかったが、帯解子安地蔵に祈ると出産した。天皇は天安2(858)年に伽藍(がらん)を建立し、帯解寺と名づけたと伝えられる。
更新日時 2015/09/01