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寺の花ものがたり(21)東光院(豊中市)萩=9月上旬~10月上旬

2004年8月30日撮影

 「寺にとっても、私にとっても、この寺の萩(はぎ)は特別な花。公園に育っている萩とは違う。死者に手向けるお供えの花なんです」。開口一番、副住職の村山博雅さんは言った。
 天平7(735)年、行基が民衆火葬を執り行い、仏前に萩を供えた。それを縁に、人々が薬師堂を建てたのが始まりだと、寺の縁起に記されているという。
 歴代の住職だけでなく、周りの人々が心を込めて育ててきた。だから、「萩こそが本尊」と言い切る。もちろん、正式には薬師如来が本尊なのだが、「萩なくして、この寺はない」との思いが強い。そういえば、寺の冊子にも、「萩の寺」の文字が「東光院」よりも大きく書かれている。
 秋には3000株が境内を埋め尽くす。その手入れを尋ねると、「愛情がすべて」の言葉とともに、「11月23日から始まる」と、意外な言い方が返ってきた。
 花が終わると、根元から2センチくらいの所で切る。刈り取った真っ直ぐな茎は筆軸にする。曲がったものは燃やし、その灰を香炉や線香立ての灰にする。
 寒肥えを施し、4月に芽が出る。「出てきた、と手を合わす」。生命力が強く、成長は早い。「ひとひらの花が咲くと、手を合わす。1本が千の花を咲かせる。千の仏さんです」
 萩の寺は愛されてきた。淀君も魅せられ、毎年のように訪れた。正岡子規は「ほろほろと石にこぼれぬ萩の露」と詠んだ。子規の一周忌に献句の会が開かれてから、9月に「子規忌・へちま供養」が続いている。
 「人の美しい心の集大成。生半可にはできない」。そんな思いに、萩の寺は包まれている。(梶川伸)

◇東光院◇
 大阪府豊中市南桜塚1-12。06-6852-3002。阪急曽根駅から徒歩5分。9月に萩まつり道了祭。期間中、志納料。道了大権現は神仏習合の名残で、江戸時代まで続いた権現まつりを継承している。新西国第十二番霊場。=2004年9月7日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性があるので、ご了承ください)2015.07.25

行基 道了大権現

更新日時 2015/07/25


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