心にしみる一言(34) 助けられず、ごめん
◇一言◇
助けられず、ごめん
◇本文◇
阪神大震災から4日目、神戸市長田区の猛火の跡地には「悲しみの共同体」が広がっていた。
白いかけらを集めている男性がいた。妻の体は燃え尽きて、遺骨に変わっていた。倒れた水屋の下敷きになり、すぐに火が襲いかかった。「お父ちゃんだけでも助かって」。最後の言葉だった。
「ごめんね、ごめんね」。19歳の女性が繰り返していた。発生直後の暗闇の中で、「助けて」という妹の声がした。「待っときよ」「うん」。火の回りが速すぎて、救出など不可能だった。
彼女は焼け跡で遺品を探していた。すすけたポケットベルが出てきて、一緒に掘っていた高校生に渡した。彼との連絡用だった。涙がその場を包み、私は別れを告げた。1年後、成人式の新聞写真に彼女の姿を見つけ、ほっとして見入った。(梶川伸)=2012年1月19日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2015.07.27
更新日時 2015/07/27