心にしみる一言(32) 木の葉なら大地に戻る。しかし、重油は戻らない
◇一言◇
木の葉なら大地に戻る。しかし、重油は戻らない
◇本文◇
ロシアタンカー「ナホトカ号」が、北陸の海を真っ黒な重油で覆ったのは、1997年の正月早々だった。北陸出身で高松市に住む書家、津幡大洋さんは心を痛め、縦1.メートル、横5.6メートルの前衛書の大作を発表した。題は「日本海のうめき」。
巨大な筆にたっぷりと墨を含ませ、上から下へべっとりと塗った。紙にはしわを寄せてあり、黒い悪魔を運んでくる波を表現していた。
現場に近い福井県三国町の大湊神社が大作を受け入れることになり、私も作品運びに同行した。
すでに4月。海は青さを取り戻していた。宮司の松村忠祀さんは「火をつけたら燃えるのではないか、と思った」と当時を振り返りながら、上の言葉を口にした。「石油に頼った生活のしっぺ返しかもしれない。人間はうぬぼれすぎた」と。(梶川伸)=2002年1月5日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2015.07.11
更新日時 2015/07/11