寺の花ものがたり(19) 舎那院(滋賀県長浜市)芙蓉=8月下旬~9月初旬
境内の芙蓉(ふよう)は、もう半世紀ほどになる。「先代の住職が植えた。檀家(だんか)からもらったのか、花が好きだったので植木市ででも買ってきたのか。それはよく分からないんですが、結婚した時には、すでに一部咲いていた」。現住職、山田龍恵さんの妻永子さんが説明する。
種が飛んだり、参道に増やしていったりして、現在は400株ほどが境内を埋めている。それでも、堂の改修工事に伴って、数が減ったらしい。「多い時は500株くらいあった」。ピンクが主で、白い花が混じる。また、少しずつ数が増しているらしい。
「花は朝開き、午後3時ごろにはしぼみ始める。その分、ピンクの色が濃くなっていくので、夕方も美しい。あくる日、ぽろっと散る。美人薄命、無常の花」
本堂のそばには、水引草(みずひきそう)が群生する。9月になると、点々と小さな赤い色を添える。春は立壺菫(たちつぼすみれ)が、紫のじゅうたんとなる。どちらも、もらいものが増えていった。
「花が嫌いな人はいないでしょ」。だから、花好きには寛大なのだろう。引き抜かれてもいいようなつもりで、参道に小さな芙蓉を植えている。「花の下を折っても、茎の皮が切れずについてくるので、花泥棒がしにくいんですよ。もし、切り取って持ち帰っても、花はすぐに枯れるから」
酔芙蓉(すいふよう)も、庫裏(くり)の近くに数株ある。純白に咲き、いつの間にかピンクに染まっていく。「午前11時ごろ、ちょっとだけピンクが差した風情が何とも言えずいい」。種があまり取れないそうだが、もう少しだけ数を多くしたいと思っている。(梶川伸)
◇舎那院◇
滋賀県長浜市宮前町13の45。0749-62-3298。JR長浜駅から徒歩15分。土、日曜はレトロバスで市役所前下車。境内自由。源義家が前九年の役(1051年)で征討祈願をした寺と伝えられる。本尊の愛染明王は秘仏。
=2004年8月24日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもあります。ご了承ください)2015.07.04
更新日時 2015/07/04