寺の花ものがたり(20) 寂光院(京都市左京区)秋海棠=7月下旬~9月中旬
「古い寺は、昔からの風景を守っていかなならん」。前住職、小松智光さん(昨年=2003年=死去)の口癖だったと、寺の相談役である責任役員、川端亮一さんが言う。寺のたたずまいに、あまり手をかけるのは嫌がったそうだ。
秋海棠(しゅうかいどう)は、境内の小さな池「四方正面の池」のほとりを中心に自生している。厚めの葉が水辺で重なり合い、赤みをおびた茎が伸びて、先にピンクの花をつける。その色が水面に写り、コイが泳ぐと、水と緩やかに揺れる。
川端さんは寺のすぐそばに住む。「子どものころ、地蔵盆でご飯をよばれた時に、この花はあった」と思い出す。
そのころから比べると、株は多少は増えたと感じている。しかし、わざわざ増やしたわけではなさそうだ。むしろ、点在している、と言っていい。小松さんは花が好きだったが、自然に咲いているのを大事にした。秋海棠もそうだ。
「決して華やかな花ではないが、寺には彩りが少ないから、花のピンクを見ると、安堵感(あんどかん)がありますやろ」。ただし、一面に咲いてしまうと、「嫌気が出る」と表現する。小松さんの遺志を継いでいるのだろう。
ある時、赤い花を植えることを提案したら、「そんなもん、あきません」と一蹴されたというエピソードも明かしてくれた。
山から流れてきた谷水が、小さな3段の滝となって池に落ちる。「滝の水音はそれぞれ違い、合奏のように聞こえる」。そんな静かな風景の中で、秋海棠は名脇役を務める。寺は11月下旬の紅葉で、鮮やかに染まる。それまでのつなぎをする花でもある。(梶川伸)
◇寂光院◇
京都市左京区大原草生町676。075-744-3341。JR京都駅などからバスで大原下車、徒15分。拝観有料。建礼門院が住み、壇ノ浦に没した子どもの安徳天皇や平家の冥福を祈った。本堂が放火で燃え、新本堂は来年(2005年)3月完成予定。
=2004年8月31日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性があり、ご了承ください)2005.07.11
更新日時 2015/07/12