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寺の花ものがたり(18) 吉祥寺(奈良県五條市)紅葉葵=7月下旬~9月上旬

2004年8月3日撮影

 「寺とはどういう意味か分かりますか」。そんな問いから、住職の岡本昇禅さんの話は始まった。「人々が集い、楽しく語り合う場所を意味するサンスクリット語の『テーラー』から来ているんですよ」
 「やって来た人と、ゆっくり話をしたい。それが寺の本意ではないか」。そう言って茶を勧め、紅葉葵(もみじあおい)の話に入っていく。
 背丈ほど伸びる茎に、直径15センチ前後の5弁の真紅の花をつける。葉は紅葉の葉の形をしている。
 目立つ花だが、花びらは蓮(はす)のように優美で、派手さが抑えられる。朝咲いて、午後3時ごろにはしぼむ1日花。そのはかなさも、強い色の印象を薄める。
 奈良市の十輪院に咲くこの花を、写真集で見た。住職は、高野山大学の1年後輩だった。頼んで種を分けてもらった。20年近くも前のことだ。境内にあった柿畑の木を切り、その跡地で700株を育てた。
 「適当に管理すればいいので、ずぼらな人にはもってこい」。入山料は取らない。「お金をもらえば、見せるだけのものを作らんといかん。雑然としている方が、本来の寺らしい」
 言葉とは裏腹に、境内は手入れが行き届いている。檀家(だんか)はないのだが、掃除に来てくれる人がいる。扶養(ふよう)が見事な花を咲かせていた。これも、だれかが植えていったそうだ。
 脳梗塞(のうこうそく)を患い、以前ほど、お参りの人の相手はできなくなった。それでも、茶道具が用意してある。「2000年までは知の時代だった。今は感の時代に移ったような気がする」。ゆっくりと2杯目の茶を注ぎながら、また話は紅葉葵からそれていく。(梶川伸)

◇吉祥寺◇
 奈良県五條市丹原914。07472-2-0332。JR五条駅からバスで丹原下車、徒歩10分。本尊は毘沙門天(びしゃもんてん)。ここ柴水山と、京都・鞍馬山、奈良・信貴山は毘沙門天出現の三大霊場とされる。4月3日に毘沙門天会式がある。
=2004年8月17日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもあります。ご了承ください)2015.06.25

毘沙門天 紅葉葵

更新日時 2015/06/26


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