寺の花ものがたり(15) 龍潭寺(滋賀県彦根市)ムクゲ=7月中旬~8月下旬
この寺に咲くムクゲは、龍潭寺白(りょうたんじしろ)と学名がついている。純白の5弁の花。普通のムクゲはラッパ状に咲く。龍潭寺白は花弁が90度まで開き、全体が平面のようになる。その分だけ大きく見える。涼やかで、華麗な夏の花である。
江戸時代、朝鮮国王が幕府に派遣した朝鮮通信使は、この寺のある彦根にも宿泊した。その際、一行からムクゲの種をもらったのが始まりだと、住職の北川宗暢さんは推測する。
「5代藍溪和尚(らんけいおしょう)が宿泊所に出向き、話し相手になった。筆談だった。使節に送った詩が寺に残り、ムクゲをもらったと伝わっている。ムクゲの種は、漢方として使われた。使節が常備薬として持っていたのではないか」
龍潭寺には、禅宗の大学が設けられていた。その中に、園頭科(おんずか)という造園技術科があった。ここで学んだ僧が、各地の禅宗庭園を施工した。このため、朝鮮通信使にもらった珍しいムクゲも、大事に育てられたに違いない。
北川さんも、挿し木で増やしていった。「素人でも挿し木くらいならできる。数えたことはないが、300本はあるのと思う」
ムクゲは韓国の国花で、龍潭寺白の種も、昔はたくさんあったはずだ。しかし、「朝鮮半島では、ほとんど見なくなったと聞いている」と語る。この寺に残ったために、学名も寺の名をとったようだ。
「ムクゲはほっとく方ほうがいい。自然のまま。仏の花にもらう時に、ついでに剪定(せん・てい)するくらい」。植物が好きだからこその言葉に思える。園頭科の伝統は引き継がれているのだろう。(梶川伸)
◇龍潭寺◇
滋賀県彦根市古沢町大洞1104。0749-22-2777。JR彦根駅から巡回バスで龍潭寺下車。徒歩なら駅から20分。拝観有料。方丈南庭は「ふだらくの庭」と呼ばれる。だるま寺としても知られ、4月1、2日にだるままつりがある。
=2004年7月27日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2015.05.30
更新日時 2015/05/30