寺の花ものがたり(16) 金剛院(京都府舞鶴市)姥百合=7月中旬~8月上旬
姥百合(うばゆり)とは、可愛そうな名をつけたものだ。
蓮(はす)のような葉が出て、茎が1本伸びる。葉が朽ちてきたころに、花が咲く。事典には、「花時にいたみがひどく、葉(歯)がないので姥に例えた」と書いてある。
松尾法空住職は、人間に例える。「花を娘に見立てると、親葉が枯れるころに、きれいな花になる。娘の晴れ姿を見られない人もいる」。そう聞くと、しみじみと眺めたくなる。
三重塔(現在は修理中)から本堂へ、105段の石段が続く。その両側の急な斜面に、100株ほどの姥百合が散在する。
緑がかった白い花弁は細長く、4枚が筒状に伸び、先端の口の部分が控えめに開く。さらに外側に、2枚の花弁が重なる。地味な花だが、キリリとしている。
火事で方丈などが焼け、無住寺だった。再興のために松尾さんが入ったのは1984年。本堂の周りを美しくするため、最初は草を刈っていた。やがて、野生の姥百合に気づいた。それまでは、草と一緒に刈っていたようだ。
ここ10年ほどは、草を刈らなくなった。「刈らなくても、植物同士は周囲とバランスをとって、高く伸びない」。自然の妙を語る。
姥百合は増えてきた。「人間の手加えていない。だれにこびることもなく、ありのままに咲いている。それが真如(しん・にょ)」と、仏教の心にも話が及ぶ。
寺域には山が広がる。その管理に忙しい。「トラック坊主」と自らを言う。トラックにチェーンソーや草刈り機を積んで、走り回る。寺を去る時に再び顔を合わせると、法衣は作業着に変わっていた。(梶川伸)
◇金剛院◇
京都府舞鶴市鹿原(かわら)595。0773-62-1180。JR小浜線松尾寺駅から徒歩20分。平安時代初期の創建。入山有料。関西花の寺霊場第3番。紅葉の寺として知られる。本尊は波切不動明王。樹齢1000年以上のカヤの巨木がある。
=2004年8月3日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもあります。ご了承ください)2015.06.06
更新日時 2015/06/05