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寺の花ものがたり(8) 壷阪寺(奈良県高取町)ラベンダー=6月中旬~7月下旬

2004年5月21日撮影

◎強い香り 本堂への道案内
 お寺にラベンダー? なぜだろう。「疑問を持ったら、考えてほしい。寺には合わない、と言う人がいる。あえて植えた理由を尋ねてほしい」。住職の常盤勝範さんは言う。
 ヒントは、寺にまつわる「お里・沢市」の物語にある。目の見えない沢市のために、妻のお里は朝参りを続け、最後には沢市が開眼するという話だ。眼病平癒の寺として信仰を集める。境内には、目の不自由なお年寄りの施設もある。
 「ラベンダーは香りが強いので、目の不自由な方の本堂への道しるべのつもり」。それが答えだった。「北海道・富良野のような一面の紫を想像して来た人は、がっかりするかもしれないが」と付け加えて。
 常盤さんは鳥取大学農学部、大学院で学んだ。植物の基礎的な知識はある。住職になって、寺の花を何にするか考え、ラベンダーに行き着いた。先代住職の父、勝憲さんもわずかだが、ラベンダーを植えていた。父子が同じ思いで、香りにひかれたに違いない。
 奈良県の農業試験場を訪ねて相談し、1988年に挿し木でラベンダーを育て始めた。本堂への道筋と、一段高い所に立つ大観音への階段の両側を飾っている。ポピュラーなラバンディンのほか、四季咲きのスーパーセビリアンブルーやピンクの品種もあり、約3000株を数える。
 「境内のわずかな標高差でも、合う品種とそうでない品種がある。集合美を考えても、風通しが大切で、真ん中が育ちにくい」。さすが農学部出身。「管理が大変なので、こじんまり育てたい思いもある。寺と花は難しい」。そんな優しさも持っていた。(梶川伸)

◇壷阪寺◇
 奈良県高市郡高取町壷阪3。0744―52―2016。近鉄壺阪山駅からバス、壷阪寺前下車。拝観有料。本尊の十一面千手観音は間近で拝観できる。西国観音霊場第六番札所。境内には山野草も多い。慈眼茶、め煎餅(せんべい)を販売。

==2004年6月1日の毎日新聞に掲載したものを再掲載。状況が変わっているかもしれませんが、ご了承ください。2015.03.28

お里・沢市

更新日時 2015/03/28


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