寺の花ものがたり(5) 本覚寺(兵庫県豊岡市)鉄線=5月中旬~6月上旬
本堂で阿弥陀如来(あみだにょらい)に手を合わせると、金谷毅元住職が言った。「寝転んで、天井をご覧なさい」
拝む場所である外陣の天井は、格子状になっている。その154ますに、色とりどりのクレマチスの写真がはめ込んであった。花のシャワー浴びる気分に包まれる。金谷さんは、天上に降る「天妙華(てんみょうげ)」にたとえながら、「5分もすれば、心穏やかになり、顔つきも変わってくる」と語る。
仏像が安置された内陣の天上は、鉄線と白万重(し・まんえ)の写真。鉄線はクレマチスの一つの種類で、小さめの白い清楚(せいそ)な花は、茶花としても人気がある。白万重は鉄線の一種。
天井の写真は、すべて、境内のクレマチスを撮った。鉢植えがほとんどで、約500種1900株を誇る。うち鉄線は170株ほどで、5月下旬に咲く。
1975年に鉄線10鉢を購入した。「原産地である中国では、鉄線蓮(れん)と言う。蓮(はす)は仏教につきもの。(本山の)西本願寺の天井にも描かれている」。その数は増えていった。
82年に出石町が町花を選ぶことになり、候補を募集した。その中に、数は少ないが、鉄線も含まれていた。ところが鉄線はそれほど知られた花ではなく、わざわざ寺から取り寄せて、審査の参考にしたという。町内の山に、日本原産の白い「風車」が自生していたこともあって、鉄線が町花に選ばれた。
町が鉄線街道と名づけて、1000本を街路樹として植栽した。アイデアを提供した金谷さんは、街道に対応して、道路横の休耕田にクレマチス1000本を植えている。天上の花は、町の中の身近な所にも降ってきた。(梶川伸)
◇本覚寺◇
兵庫県豊岡市出石町魚屋19。0796-52-2891。JR八鹿、江原、豊岡の全但各駅からバス330分で出石へ(便は少ないので注意)。徒歩15分。拝観自由。天台宗の寺だったが、蓮如(れんにょ)の時に浄土真宗へ。出石町は皿そば、出石焼きが名物。
=2004年5月11日の毎日新聞に掲載したものを再掲載。状況が変わっているかもしれませんが、ご了承ください。なお、辻本良尊住職はその後、お亡くなりになりました。2015.01.08
更新日時 2015/02/08