寺の花ものがたり(4) 栄山寺(奈良県五條市)山吹 4月下旬~5月上旬)
「肩ひじ張らない寺」。参拝客から、そう言われるのだと 辻本良尊住職が語る。
敷地に入る小道に小さなボックスがあり、入山料を払う受付になっている。中に座っているのが、住職本人と知って驚いた。
国宝、重文を合わせて21件もある寺なのに、塀で囲まれていない。国宝の鐘もさわることができる。スミレなどの野草がふんだんに花をつけ、野生的とも言えるが、雑然と草が生えているとも見える。
奈良・天平時代に造られた美しい八角堂の周辺に、山吹(やま・ぶき)が咲く。黄の一重と八重が混じり、白の一重も彩りを添える。
辻本さんは1976年、住職になった。高校の事務局長からの転身で、54歳だった。「寺の環境を整備したい」。そう思って植えたのが、山吹とツツジだった。
寺の前は吉野川(和歌県では紀ノ川)。空海が修行をした時、水音を静める修法をした、との伝説がら、「音無川」の異名がある。
辻本さんが子どものころ、川には山吹とツツジが自生していた。何の花を選ぶか考えた時、その2つの花に決めた。山吹は約300株を植えた。いまでも「100株はある」と言う。
辻本さんは写真家でもある。八重の山吹が好きだ。「花の色が光る。弓なりに弧を描く風情がいい」
「このままの寺でいてほしい」。そう言う参拝客もいるようだ。「檀家(だん・か)が1軒もない。縮こまっているような寺。格好つけられないのは、実は経済的に苦しいから」。肩ひじ張らない言葉が口が出てくる。
境内の小さなギャラリーに、八角堂の天井などに描かれた仏画の写真が展示してある。写真に添えられた「消え消えの美」の表現が印象的だ。(梶川伸)
◇栄山寺◇
奈良県五條市小島503。07472・2・2086。JR五条駅から徒歩25分。入山料有料。奈良時代の養老3(719)年、藤原南家の初代、藤原武智麿(むちまろ)の開創と伝えられる。薬師如来は特別開扉がある。
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=2004年4月27日の毎日新聞の掲載したものを再掲載。状況が変わっているかもしれませんが、ご了承ください。なお、辻本良尊住職はその後、お亡くなりになりました。2015.01.26
更新日時 2015/02/05