心にしみる一言(3) そばで話していると、顔が紅潮してくるんです
◇一言
そばで話していると、顔が紅潮してくるんです
◇本文
良子さんはベッドに寝たままだった。「静かな生」。そう見えた。現実は医療ミスのため、16歳から植物状態というむごい生を強いられていた。
話すこともできず、意思を通じる手段もない。そう思い込み、ベッドのそばでお父さんから良子さんの状態を聞いていた。まくら元には、中学校の修学旅行で撮った笑顔の写真が置いてあった。
しばらくして、良子さんの顔のちょっとした変化に気づいた。ほおが赤く染まっていく。ハッとした。お父さんに尋ねると、この言葉が返ってきた。「聞こえているんですよ」と付け加えて。
取材して20年近くたつ。その間に、お父さんは亡くなり、良子さんは43歳になった。お母さんに電話をすると、「笑顔よしです」と言った。親子の間で、意思と心は通っているに違いない。(梶川伸)=2001年5月24日の毎日新聞夕刊に掲載しいたものを再掲載2015.01.31
更新日時 2015/01/20