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阪大の先生②小倉明彦さん 知識の身体化を目指せ

料理にはまったのはドイツ留学時代。「とんかつソース的なソースがなくて野菜を煮込んで作ったり、油揚げが食べたくて豆腐から作ったり。料理と言うより素材作りだね」

 「焼き豚には前と後ろがある」「クッキーとビスケットの違いとは?」「牛乳はなぜ白いのか?」

 普段何気なく食べているものに対する疑問を科学的に説明するだけでなく、実際に学生と一緒に料理をして学んでいく「料理生物学」は、大阪大学豊中キャンパスの名物講義だった。担当する小倉明彦教授の研究室が吹田キャンパスに変わったこともあって現在は開講していないが、このほど講義の内容を抜粋した「実況☆料理生物学」(大阪大学出版会)が発行され、人気を集めている。

 「学生は知識は豊富だけど、それは本やインターネットからのものばかりで、自分で実践して得たものは少ない。最近は中学や高校でも理科の実験をあんまりしないみたいだしね」。そう話す小倉さんは「知識の身体化」という造語を使う。自分の経験を踏まえて知識をより深めていくことだ。「そのきっかけとして、料理は1番身近な題材。作らない人はいても、食べない人はいないんだから」

 講義ではキャンパス内でタケノコ堀りやキノコ取りもした。うどんやラーメンを小麦粉から作ったこともある。こね始めはパサパサだったタネが、寝かせるとしっとりするのは、混ぜ込んだ酸素とタンパク質分子が化学反応を起こして水になるからだ。こうして実際にやってみて説明を聞けば、知識は身体化して身についていく。

 実は、小倉さんの専門は神経生物学だ。記憶が成立する仕組みについて、細胞レベルの解析を行っている。

 神経科学における最近10年で最も重要な発見の1つに、ミラーニューロンという神経細胞がある。「物まね細胞」とも呼ばれるこの細胞は、ある動作について、自分自身でした時にも、他人がそれをするのを見た時にも、同じように活動するという。「つまり、他人の意図や気持ちを理解する心について、哲学ではなく科学で語れるようになったということ。それができない心の病気に対しても、抽象論ではないアプローチが可能になる」

 学生時代は陸上部だった小倉さんは、東京オリンピックの聖火ランナーを務めたことが自慢だ。「当時通っていた東京の中学から、伴走者を含めて3人が選ばれるって聞いてね。頑張ったよ。800メートルくらいだけど、いい思い出」と笑った。(礒野健一)
=地域密着ウェブ「マチゴト豊中・池田ニュース」第33号(2011年12月1日)

小倉明彦 ミラーニューロン

更新日時 2011/11/30


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