このエントリーをはてなブックマークに追加

編集長のズボラ料理⑬ タコワサビのたきこみご飯

タコワサビの量や具は自分の好みで

 香川県の島々を、取材も兼ねて訪ねた時期がある。僕が50歳のころだった。思い出はいくつもある。
 粟島では、宿の支配人が同い年だった。客が少なかったので、島の中を案内してくれるという。お願いをして、墓地に連れて行ってもらった。土葬の島で、遺体を埋める墓とは別に、お参りのための墓を作る両墓制の風習に関心があったからだ。
古い車に揺られながら、支配人の話に聞き入った。島で人が亡くなると、若い人が墓を掘る。支配人は若い方で、ずっとその役をしてきた。高齢化はさらに進む。だから、冗談交じりこんな言葉が出た。「私が死ぬ時は、あらかじめ自分で墓を掘っておくのかなあ」
日が落ちると、支配人に誘われて、夜光虫を見に出かけた。海の中でボーッとした光の輪ができ、水面近くではキラキラ輝く。水に手を入れてかき回すと、光がまとわりついてくる。幻想的な夜。そんな美しい島にこそ、切実な日常の現実があるのだ。
 島に行くと、買ってみたくなるものの1つが、干したタコだ。ひごで引っ張られ、足を広げられたタコがつるされ、風に揺られている。つい手が出る。
 家でタコ飯をつくる。島で食べると、実においしい。その味を思い浮かべながら、干したタコを半日かけて水でもどし、炊き込みご飯にした。食べてみると、固い。もどす時間が短かったのだろう。数日たって、残りのタコで再度挑戦した。今度は1日水につけた。これで、どうだ。しかし、やっぱり固い。
 それ以降、タコ飯を作るのは封印することにした。ところが、この世はままならない。友人が干しダコをくれたのだ。どうせ、もらい物を持てあましたのだろう。再び挑戦した。また固い。
 もう生涯、タコ飯はつくらない。決意は干しダコほど固い。でも、僕には代案がある。スーパーで「タコワサビ」を買ってくる。ワサビ味のタコの塩辛のようなものだ。小さなパック3つで、298円といったところ。これで炊き込みご飯をつくる。米1合に1パックを使う。米の上にだし昆布を敷き、その上からタコワサビと刻んだシメジを乗せて、スイッチを入れるだけ。簡単だし、第1、固くない。濃い味が好きな人は、しょうゆを適当にたらして炊くとよい。(梶川伸)

更新日時 2011/06/13


関連地図情報

関連リンク