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心にしみる一言(383) 演奏を中断し、11時2分に鐘を鳴らします

ハイデンの鐘をつくハイデンの人

◇一言◇
 演奏を中断し、11時2分に鐘を鳴らします

◇本文◇
 スイスの日本人の友人が住んでいて、2018年に訪ね、1週間ほど滞在した。観光地も案内してもらったが、彼の思いは「日常生活を見てほしい」というものだった。
 8月9日はボーデン湖のほとりの小さな町ハイデンに行った。目的地は赤十字の創設者、デュナンの小さな記念館。彼のパートナー(日本人女性)がバイオリニストで、そこで演奏するからだった。
 20人あまりが入る部屋で、部屋で彼女はハープトノヂュオでグノーの「アベマリア」を弾いた。終わるといったん、バイオリンを弾く手を止めた。それは演奏開始前にみんなに告げられていた。それが、取り上げた言葉だった。
 庭に鐘があった。長崎の鐘のレプリカだった。毎年、長崎に原爆が投下された午前11時2分、近くの人が集まり、鐘から下がったひもを引いて慣らすそうだ。
 この日も近くのスイスの人50~60人が列を作り、順番に鐘を鳴らした。日本からはるか離れた小さな町の小さな庭で、長崎の鐘はハイデンの鐘に共鳴した。私もひもを引きながら、涙が止まらなかった。
 演奏は再開された。タイスの「瞑想旭」などのあと、最後は「浜辺の歌」「夏の思い出」のたどたどしい合唱だった。(梶川伸)2022.08.09

更新日時 2022/08/09


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