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心にしみる一言(380) 安心立命

善通寺

◇一言◇
 安心立命

◇本文◇
 初めての四国遍路は、自転車で回った。歩きよりは行動範囲が広がるので、随分寄り道をした。新聞記者だったので、好奇心も結構強く、それもウロウロする要因でもあった。
 イリコの島として知られ伊吹島に寄り、暑かったので海にも入った。そんな後で、75番・善通寺に宿坊に泊まった。
 寺に着くと、高吉清順・善通寺56世法主にあいさつをした。以前、取材させてもらったことがある。いかめしい肩書とは反対の、気さくな人だった。
 初めての遍路だと告げると、祈りの気持ちの大事さを話してくれた。「テレビやラジオといった世の中の雑音をシャットアウトせんと、自分の気持ちがお大師さまに伝わらんわな」。寄り道ざんまい、雑念だらけの私には、最初から耳の痛い言葉だった。
 そういえば、伊吹島の宿でも、テレビを見続けていた。それも照れながら話すと、「心を安らかにしてこそ」という意味の「安心立命(あんじんりつめい)」の言葉を教えられた。
 そのころ、善通寺の宿坊にはビールはなかった。部屋にはテレビもない。管長の教え通りに雑念を捨てようかとも思った。
 湯食の後は時間が余る。ついつい外の酒屋で缶ビールを買ってきて、伊吹島のイリコ工場でもらった魚の子をあてにしながら、1本だけ飲んでしまった。山田風太郎の小説を読んだが、められた消灯時間の午後9時前には寝入ってしまった。安心立命に近づいたのだろうか、7遠ざかったのだろうか。(梶川伸)2022.07.03

更新日時 2022/07/03


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