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編集長のズボラ料理(610) 鶏肉の焼き煮

鶏の皮の焼けた香ばしさが大事

 僕が遍路を始めるきっかけを作ってくれたのは、ノンフィクション作家の女性だった。残念ながら亡くなってしまったが。
 彼女は東京に住んでしたが、薬剤エイズの取材を機に関西に住んだ。彼女の取材先の弁護士や医療過去の被害者に僕の友人がいたので、一緒に酒を飲むようになった。ある時、彼女は若いころ歩き遍路体験を語った。こちらは酒の勢いで、「僕も行くわ」とつい言ってしまった。
 それが遍路への道につながった。そのせいか、僕の周りには「酒は飲むは、たばこは吸うわ、遍路はするわ」といった手に負えない人間が多い。
 彼女は良い文章を書いたし、出版した本の評判も良かった。外国に住む日本人100人余りを取材した「在外日本人」は、僕が勤めていた毎日新聞の出版文化賞にノミネートされたこともある。自らのがんをテーマにした「がん患者学」は分厚い本ながら、結構売れた。
 しかし、文章で食べていくのは難しい。在外日本人の取材では、800万円の借金を抱えたらしい。金かなくていつもピーピーしていて、レストランで皿洗いのようなアルバイトをしながら、物書きを続けていた。
 金ピーピーのくせに、グルメぶって、いいものを食べたがる。食べ物のコラムを書いていたこともあるから仕方ないが、「身の程をわきまえろ」である。
 京都市・南禅寺そばの瓢亭(ひょうていい)に行こうという。こちらはグルメではないが、名前くらいは知っている。「そんな敷居の高い店に行けるか」と突き放した。すると「朝ご飯だから」と言う。調べてみると、朝xでも5000円くらいする。「何じゃ、コリャー」である。ゆで卵が絶品だと言うことも知っているが、ゆで卵に5000円は無理や。
 代わりに、大阪市・鶴橋のきちゃないホルモン鍋の店「パンダ」でおごってやった。ここなら1人前1000円。「いくらでも、食べrてくれ」である。すると、「ジャンクなものばかり食べていると、体を悪くするよ」と偉そうに言う。自分の体の方ががんで大変なのに。
 彼女が「家で鶏鍋をする」というので、仲間4人で集まったことがあった。シンプルな鍋だが、木の芽(サンショウの葉)が大量に入っていた。「鶏よりも高くかかった」と。しかも、鍋パーティーが始まると、「木の芽は味つけだから食べないで」と、グルメぶる。
 鶏もも肉を、油をひかずにフライパンで焼く。まず皮を下にして、焦げ目がついてきたひっくり返し、さらに焼く。いったん取り出し、食べやすい大きさに切っておく。ゴボウのささがき、ほぐしたマイタケ、ミツバ、木の芽10枚ほどを用意する。鍋にだしをとり、みりん、酒、砂糖、しょゆ、木の芽で味をつけ。鶏肉、ゴボウ、マイタケを煮る。最後に三つ葉もサッと煮る。それぞれ取り出して皿に盛り、煮汁を少しオかける。
 彼女が抗がん剤治療を受けていたころ、僕は高松市勤務だった。「何ものでを通らない」というので、さぬきうどんを10日に1度くらい送っていた。それは食べられたというl。グルメを気取っていても、安い半生うどんだって食べるじゃないか。「いいものばかり食べていると、体に悪い」と言ってやればよかった。(梶川伸)2022.07.06

更新日時 2022/07/06


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