心にしみる一言(312) 空飛ぶラーメン丼
◇一言◇
空飛ぶラーメン丼
◇本文◇
毎日新聞で「けったいでんな」という欄があった。ちょっと面白い人を登場させる企画で、私も何度か担当したことがある。
印象に残ったのは、「魔法のターボを考案した」と取材依頼の投稿を送ってくれたおじいさんだった。どこか浮き世離れしていて、楽しくて、つい笑みがこぼれてしまう人だった。実は2回目の取材だった。
1回目も取材依頼があった。「空飛ぶラーメン丼を考案した」。わけのわからない内容だったので、訪ねることにした。
場所は門真市幸福町。地名だけで、うれしくなる。幅2メートル、奥行き4メートルほどの小さな店だった。店の名前は「幸福たこ焼きラーメン」。
赤い字の手書きメニューが、入口を覆っていて、みるからにおかしげな店。カウンターにいすが4つ置いてあった。上半身は下着のシャツ1枚の男性が迎えてくれた。ウーンとうなるほど変だ。幸福町でなければ、決してそぐわない。
自慢の「空飛ぶラーメンどんぶり」(当時360円)を注文した。ゆでたメンを丼に入れる。ご飯をラップに包み、すのこの上に乗せて、ほうり上げては受けるパフォーマンスを繰り返す。空を飛んだご飯は、おにぎり状になり、それをラーメンの上に。具をスープで煮立て、卵とじにして丼に注ぐ。
普通のラーメンは160円だったから、この店では1番高いメニューだった。お客さんの評判を聞いた。「月に3杯か4杯は出る」。店の大ヒット商品だった。すべてが幸福町にふさわしい。
ちなみに、魔法のターボとは炊飯器のご飯をおいしく保つ木の板だった。それが、なぜターボなのか? 小さな孫が「ターボがいい」と言ったからだった。2回目の取材も、幸福町らしい内容だった。(梶川伸)2021.06,04
更新日時 2021/06/04