編集長のズボラ料理(514) タルタルコロッケ
当たり前のことだが、人生経験を重ねるに従って、視野と世界が広がっていく。確信していたものが、崩れてもいく。ソースを例にして考察してみる。
ソースと言えば、ウスターソースか豚カツソースしかないと確信していた。中濃ソースなるものがあると知ったのは、随分たってからだった。簡単に言えば、もともと知っていた2つのソースの中間みたいなものだから、驚くこともないが、それでも、「なーるほど」と妙に納得したものだった。
ただし、我が家の冷蔵庫の中では、定着しなかった。長年の経験で、ソースは2分類と思い込んでいたからだろう。
やがて、オタフクソースを知る。おやじ、おふくろの出身が広島で、里帰りなどした時にお好み焼き(広島焼き)を食べつことがあったからだ。お好み焼きだけのソースじゃけえ、ぶったまげたでがんす。
子どもたちが大きくなるまで、オタフクは冷蔵庫で定位置を獲得し、ソースは3点セットの時期が続いた。どこの家庭でもそうだろうが、よくお好み焼きを作ったからだ。
オタフクは広島県人がこよなく愛するソースだ。では、大阪人にとってのソール・ソースはないのか。ある。ヘルメスソースがそうだ。僕は大阪生まれではないので、ヘルメスを知ったのは、50歳のころだった。
大阪府守口市の大学で1時期、非常勤で授業をしていた。大学のそばに米屋さんがあって、ある時に「ヘルメスソース入りました」の張り紙を見つけた。「何や、これは」と思い、買ってみたのが最初だった。やがて、阪急百貨店でも置いていることを知り、かくして視野と世界は広がり、冷蔵庫の中はソースカルテットとなった。
ソースの視野を決定的に広げたのは、タルタルソースだった。ソースは黒か濃い焦げ茶色と信じて疑わなかった。それなのに。カキフライについている白い物がタルタルだと知り、ソースの世界はコペルニクス的転回を見せた。
西洋料理の調味料は何でもソースなのだ。何というソースの世界の広がり。そして開放感。僕が知らなかっただけのことではるのだが。
ゆで卵を作る。殻をむいてから、小さく切る。タマネギのみじん切り、細かく切ったベーコン、刻みパセリを加え、塩とコショウを振り、マヨネーズで和えて、タルタルソース風のものを作る。マヨネーズは抑え気味で、シャブシャブにはならないようにする。これを冷蔵庫で冷やす。団子状に成形し、小麦粉を振り、溶き卵に通してからパン粉をつけ、油で揚げる。
ソースは調味料だが、これはソース自体が本体。世界が広がったのか、世界を衣の中に閉じ込めたのか。(梶川伸)2021.06.17
更新日時 2021/06/17