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心にしみる一言(273) 捨ててもらってありがとう。私では捨てられなかった。

遍路仲間は仲が良かった

◇一言◇
 捨ててもらってありがとう。私では捨てられなかった。

◇本文◇
 2004年に台風23が上陸し、各地に大きな被害をもたらした。近畿地方の北部の被害も大きかった。
 毎年のように台風被害が出ているので、どの台風かわからない人がほとんどだろう。乗客がバスの上に乗って、「上を向いて歩こう」を歌いながら一晩を過ごして助かったことを覚えている人がいるかも知れないが、それが23号でのエピソードとして知られる。
 遍路仲間の1人の家が、夜のうちに床上浸水となった。遍路でしんどい道を一緒に歩いていることもあって、みんな仲がいい。翌日連絡を取り合って、その次の日に11人が後片付けの手伝いに行き、私も加わった。
 仲間の家は2階建てで、本人は2階に逃れて夜を過ごした。1階は泥だらけだが、ほとんど手つかずのままだった。
 長靴を借りて、家具の移動と泥かき。畳は使い物にならないので、全て運び出した。水を含んでいて重い。普通なら1人でも持てないこともないが、4人で持たないと動かなかった。
 泥を土嚢(どのう)に入れて運び出す。一輪車などで運ぶが、これも重い。袋一杯に入れると、とても持ち上がらない。半分程度入れて、運んだ。袋がいくつあっても足りない。途中から、袋は使うが、捨てる場所で泥だけを出す方式に切り替えた。
 夜は安い宿を見つけて泊まった。2日目も同じような作業。部屋のカーペットを取り除いた。へばり付いていて、なかなかはがれない。カッターで少しずつ切り取った。外の溝を掘り起こして、排水路を確保するグループもいた。これも、腕と腰がヘトヘトになる作業。屋外の物置が倒れかかっていて、それも直した。中は泥水が入り、ヘドロ状態。水もたまり重い。中のものを全部出して、中を洗い、立て直した。
 泥をかぶったものは、次から次に捨てた。1階が空っぽ状況になったころ、本人が口にしたのが、取り上げた言葉だった。確かに、慣れ親しんだものは捨てがたいのだろう。こちらは自分のものではないから、役に立たないと思ったものはドンドン捨てた。結果的には、それが手伝いになったのだと思った。(梶川伸)2020.11.24

更新日時 2020/11/24


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