心にしみる一言(272) 地面一杯に黄色になると、あたりが明るくなる
◇一言◇
地面一杯に黄色になると、あたりが明るくなる
◇本文◇
奈良県桜井市の山あいに、小さな尼寺・音羽山観音寺がある。食べ物作りなど尼僧らの日常を追うテレビ番組があり、気負わない生活をうらやましく見て、懐かしんでいる。
車が通れる道から、50分ほど山道を登る。私たちの日常とはかけ離れた環境の中に、お葉つきイチョウの木があって、それを取材したことがある。このイチョウは葉の裏に実ができる両性の木で、古代イチョウとも呼ばれる。
訪ねた時は、黄色の葉が境内にたくさん落ちていた。縁側に座り、樹齢600年を超える木を見ながら、住職の後藤密栄さんから話を聞いた。気取ることのない日常会話のような取材だった。
「(お葉つきイチョウの)葉は小さい。身に栄養を取られるのかな」と、そんな口調で語る。木に話が移る。「雨て土が流れてしまう。根元が少し出てくると、踏まないように、土を入れる。ちょっとでも長生きしてほしいから」
落ち葉についても語り、取り上げた言葉になる。そのあたりをさらに詳しく書いてみる。
--日に日に色が出てくる。毎日変わっていくのが新鮮。地面一杯に黄色になると、あたりが明るくなる。「うわー、きれい」と、だれも踏んでいない葉の上を歩く。3日の間に半分散ることもある。黄色くなって落ちるまでは短い。落ち葉は燃やさずに、全部木の根元に戻す。落ち葉の上を歩く。気持ちいい。自分の気持ちが洗われるような気がする。全部落ちて、踏みしめられてからはく。
イチョウの木1本で、たくさんの喜びを感じるような人だった。取材したのは16年前だが、テレビ番組を見ていると、全く変わっていない。(梶川伸)2020.11.19
更新日時 2020/11/19