心にしみる一言(245) 寺の庭に魅せられて庭師になった
四国の遍路に行って、人生が変わったという話はしばしば聞く。ほとんどは生き方や心の変化だが、今回取り上げた人は仕事まで変えていた。
2016年のことだった。6番札所・温泉山安楽寺の宿坊に泊まった。雪の降る日だった。玄関で歩きのお遍路さんがカッパを脱ぎ、雪を払っていたので、会釈した。
まず風呂に入った。ここは山号の通り温泉。そこで玄関で会った男性と一緒になったので、湯船の中でしばらく話を聞いた。2回目の遍路だという。
――1回目に回ったのは、20代前半だった。勤めを辞めて歩いた。霊場を巡るうちに、寺の庭に魅せられた。結願してから東京で庭師の修行を始め、やがて京都の寺の庭の素晴らしさを知り、現在は京都で庭師をしている。
――15年ぶりに2度目の遍路に出た。1回目の時は、この寺の山門(2層になっている)の2階で“野宿”したが、寺が気に入り、今度は宿坊に泊まりたいと思っていた。実家が静岡で、そこに移りたいと思っている。今回は逆打ち(逆回りの巡拝)だから、明日結願する。その後、88番にお礼参りに行く。実家が静岡で、そこに移りたいと思っている。
1回目は遍路が転機となり、2回目は転機とするための遍路だったのだろう。
風呂場ではもう1人、年配のお遍路の話も聞くことになった。
――兵庫県西宮市に住み、夙川の桜を増やすボランティアをしている。桜が弱ってきているので、バイオ技術で育て、植えている。
はからずも、2人とも木に関係する活動をしていた。私自身も花が好きで、野の花で押し花などをしている。不思議な出会いだった。(梶川伸)
更新日時 2020/07/10