このエントリーをはてなブックマークに追加

編集長のズボラ料理⑩ ホタルイカと菜の花のパスタ

菜の花の緑が美しい

 中高年の恋物語を、毎日新聞で連載したことがある。団塊の世代を対象にしたページを作ることになり、その中に少し色っぽい記事を入れようという会社の魂胆だった。タイトルも「もういちど男と女」と決めたうえで、僕に押し付けてきた。
 これには困った。取材の窓口がない。事件なら警察、中高年への施策なら役所の高齢介護課に行けば良い。しかし、高齢恋愛課はない。だからといって、やたらと「あなた、恋していますか?」と聞くわけにもいかない。
 取材対象が見つかれば、遠くまで出かけた。富山へも行った。男は60歳の住職で再婚。女は50歳で、東京に住んでいた。式で、初婚の新婦は強く希望して白無垢(しろむく)を着た。
新婚生活が始まった。富山の新聞に金婚式の夫婦の名前を載せる欄があり、新婦が珍しそうに見ていた。住職が声をかけた。「金婚式をしようか?」
 会話は続く。「あなた、何歳になると思うの?」「110歳」「私は100歳よ」「じゃあ、しよう」。ただそれだけのことだった。しかし、45回の連載の中で、1番好きな話だった。
取材の後、ホタルイカ博物館に行った。妙な記事を押し付けた会社へのあてつけである。ホタルイカ御膳(ごぜん)も食べた。1900円と高いが、出張旅費もある。刺身、沖漬け、ゆでたもの、天ぷらが出てきて、満腹。
 さて、今回の料理。パスタは、だしの素を入れた湯でゆでる。僕はイオンで売っている「天然だしパック」を重宝している。ホタルイカは目を取る。少し大きくなれば、腹の薄い骨も抜く。僕はズボラだが、これは欠かさない。菜の花は適当に切って、軽く塩ゆでする。フライパンでオリーブオイルを熱し、ニンニクで香りをつける。ホタルイカ、菜の花、パスタの順で入れていため、しょうゆをたらす。
 ホタルイカを食べると、富山の夫婦を思い出す。金婚式まで、あと何年になったのだろう。(梶川伸)

ホタルイカ博物館

更新日時 2011/04/06


関連地図情報

関連リンク