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心にしみる一言(210) 今、太陽が入ってきました

浄土寺浄土堂

◇一言◇
 今、太陽が入ってきました

◇本文◇
 この言葉を聞いたのは、兵庫県小野市の浄土寺へ行った時のことだった。前から行きたいと思っていた寺で、念願がかなったのは5年ほど前のことだった。
 鎌倉時代に重源によって建立された寺で、境内の浄土堂と安置されている阿弥陀三尊は国宝。参拝の目的は国宝を見ることではあるのだが、さらに言えば、その像が赤く染まるのを見たかった。
 しとみ戸から入ってきた西日が、朱塗りの柱や垂木に反射して、阿弥陀三尊の唇や頬などをほんのりと赤く染めるという。それを見たかった。
 1月の寒い時期だった。曇っていたので、赤い世界は半分あきらめていた。堂内で座って、寺の女性の話を聞きながら、しばらく待った。「冬の西日は夏よりも、太陽が柔らかいし、冬の方が空気は澄んでいて良い」「夏はセミの声がうるさい」
 同じように待っていた人たちはしびれを切らして、堂の外に出た。やがて僧侶が読経を始め、すると運良く太陽が姿を現した。寺の女性はあわてて、さっき出ていった人たちを黄泉に走った。「今、太陽が入ってきました」
 光が三尊の後方あたりから堂内に入ってきた。柱や垂木に反射した朱色が、阿弥陀のほほや唇、手のひらなどを淡くに染めた。思ったほど赤くはなかったが、寺の女性が話していたように、このくらいのほんのりした色づきが良いと思った。(梶川伸)2019.09.30

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