心にしみる一言(197) 魂が抜けていないから、お不動さんは撮ってはいけない。建物ならいいが
◇一言◇
魂が抜けていないから、お不動さんは撮ってはいけない。建物ならいいが。
◇本文◇
近畿36不動と名づけらられた寺を順番に参拝したことがある。1番は大阪市、四天王寺の中の亀井不動だった。
時は晩秋。境内の木々がすべて色づいていた。堂のそばには桜の木。はらはらと葉が堂の屋根に落ちていた。
しっとりとした風情のもとで、不動に手を合せた。不動は緑のコケに被われている。参拝者が水をかける。それがコケを育てる。みんなと同じように水をかけた。ここまでは良かった。
せっかくだからと、写真を撮っていると、寺の人から声がかかった。それが取り上げた言葉だった。「お不動さんは力が強いから」と。慌てて不動に向けていたレンズを建物の方に移したが、すでに数回、シャッターを押した後だった。
実は寺の人の言葉には、気にもとめていなかった。すると……。
その時期、私は毎日新聞の夕刊のあるページの責任者をしていた。夕刊がすんで、お参りをスタートさせたのだった。
2番清水寺は近く、5分ほど歩いて境内に入ろうとした。まだポケットベルの時代で、ブルブルと鳴った。電話を探して四天王寺の近くまで帰り、やっと見つけた電話ボックスからかけた。夕刊の記事で間違いがあるという。不動の写真を撮ったたたりが、早くもこんな形で現れたと思った。タイミングがよすぎる。
会社に帰って訂正記事などの後始末をしていると、さらに2カ所間違いが見つかった。何ということ。不動の力は強すぎる。
それ以降、36番まで回る間、お不動さんの写真を撮るのはやめた。(梶川伸)2019.07.05
更新日時 2019/07/05