このエントリーをはてなブックマークに追加

心にしみる一言(198) 脳のどこかに、コンタクトを求めようとする機能が残っている。それを探り当てるようアプローチすることが大事だ

愛犬がきっかけで言葉が戻ったケースもある

◇一言◇
 脳のどこかに、コンタクトを求めようとする機能が残っている。それを探り当てるようアプローチすることが大事だ。

◇本文◇
 脳卒中や交通事故などによる脳の損傷が原因で、言語や記憶といった認知機能に起こる障害を、高次脳機能障害と言う。そのような患者を治療し、社会復帰を実現させる医療に携わる山口研一郎医師を取材したことがある。
 何の反応もないような状態から、社会復帰させた例もある。そんな例の中で、取り上げた言葉が含まれていた。
 「反応が出てくるのは、事故や発症から半年ぐらいまでのことが多い。脳のどこかに、コンタクトを求めようとする機能が残っている。それを探り当てるようアプローチすることが大事だ。声かけであったり、スープを与えることであったり、ふろに入れてみることであったりするが、いかにあきらめずに続けるかだ」
 交通事故で意識不明になった女性患者のケースでは、半年後に言葉が出た。きっかけは、飼っていた犬を母親が患者のひざに乗せたことだった。かすかに目を開けた。間もなく、栄養をとるために口に入れていたチューブを、ピチャピチャとリズミカルになめるようになり、やがて言葉が出るようになった。
 別ののケースでは、8カ月たって目が天井を見始めた。母親が動くと、その動きを追うようになった。患者が名づけた愛犬「ジョイナー」の話をすると、言葉としては聞こえなかったが、「うん」とうなずいた。そのことがきっかけになり、言葉が戻った。
 山口さんは思いついたことは何でも試してみる。社会復帰が成功することについては、「技術があるわけではない。発想法の違いがあるだけだ」と語った。(梶川伸)2019.08.12

更新日時 2019/07/12


関連リンク