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心にしみる一言(158) 一筋の道を目指す人間は、すべてを捨ててもいい

岳人の森のヒメシャガ

◇一言◇
 一筋の道を目指す人間は、すべてを捨ててもいい

◇本文◇
 徳島県立池田高校の野球部は、「池田イレブン」「やまびこ打線」などと呼ばれ、甲子園を大いにわかした。チームを率いたのは蔦文也監督(故人)だった。職場が徳島だった40年ほど前、取材で何度か蔦監督に会ったことがある。
 取り上げた言葉は、蔦監督の言葉らしい。直接聞いたことはない。蔦監督に会ってから30年あまりたった2012年に、徳島県神山町の山奥にある四国山岳植物園「岳人の森」で、森の主人である山田勲さんから聞いた。
 山田さんの話は深みがあった。岳人の森づくりを始めたのは23歳の時。高度経済成長の絶頂期だったが、その裏側で山林の人口は減っていった。山で生まれた山田さんは危機感を持ち、人がやって来るようなものが必要と考えた。林業で得た収入を、すべて森づくりにつぎ込んだ。その時に拠り所となったのが、蔦監督の言葉「一筋の道を目指す人間は、すべてを捨ててもいい」だったそうだ。
 たった1人で動き出した時、「5メートル先が見えないほどのジャングル」だった。そんな山を切り開き、2キロ先から水を引き、池を造り、各地の貴重は高山植物を植えていき、40年かけて3ヘクタールの植物園を完成させた。「地域つくりは芸術」と話す。そうでないと、人は来てくれないという。
 訪ねた時は、ヒメシャガが満開だった。案内してくれた山田さんは、ヒメシャガの横の池を示し、「苦労をかけた妻の名前を、池の名前にした」と、照れくさそうに話していた。(梶川伸)

更新日時 2018/06/09


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