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寺の花ものがたり(151) 江口の君堂(大阪市東淀川区)桜=4月上旬

2004年4月12日撮影

 桜の名所とまでは言えないかもしれないが、物語がある寺で、桜の風情と重なるのがいい。
 小さな寺で、住宅街のわかりにくい場所にある。本堂は小さく、鐘楼の方が目立つ。桜の木は多いわけだはないが、枝垂れも八重もあり、境内が狭い分、「春は桜」の雰囲気を醸し、桜を愛でる人も訪れる。私が行ったのは時期が遅く、葉桜に近い状態だった。
 寺にちなむ謡曲「江口」の説明板があった。西国行脚の旅の僧が、江口の里で遊女に会う。遊女は昔西行が宿を借りた時の歌問答を聞かせ、自分は江口の化身だと言って逃げた。後を追うと、江口の君が侍女と現れ、普賢菩薩になる。
 その謡曲の元になる話は次のようなものだ。仁安2(1167)年の秋、歌人西行が大坂・天王寺へ参詣する途中、江口の里で時雨にあい、一軒の粗末な家で雨宿り頼んだ。しかし、女家主の遊女妙(たえ)はその申し出を拒む。そこで、西行が「世の中をいとふまでこそかたからめかりの宿りを惜しむきみかな」と歌を詠むと、「世をいとふ人としきけば仮の宿に心とむなと思ふばかりぞ」と見事に返歌をした。その即興の歌が縁となって後に妙は仏門に入り、余生を人びとの相談ごとにあてた。妙(光相比丘尼:こうそうびくに)の亡き後、江口の人びとが、冥福を祈って建てたのが、江口の君堂だといわれている。
 寺の説明には、浮世は「仮の宿」とする大乗の内容だと書いてあった。

◇江口の君堂(えぐちのきみどう)◇
 大阪市東淀川区南江口3-13-23。06-6328-0504。大阪市営地下鉄今里線の瑞光四丁目駅から徒歩約15分、境内自由。
(梶川伸)=状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください。2018.03.21

更新日時 2018/03/21


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