心にしみる一言(120) 朝がたは、まだお寒うございます。本格的な夏になりませんと
◇一言◇
朝がたは、まだお寒うございます。本格的な夏になりませんと
◇本文◇
西国33カ所の観音霊場を回っている時、京都市の19番革堂行願寺で、粋な言葉を聞いた。夏の初めだったと記憶している。
革堂は街中にある。読みにくいせいか、革堂に「こうどう」とふりがながつけてある。石碑には、「一条こうだう」と彫ってあった。境内に入ると、本尊は行丹上人が彫ったと伝えられる千手観音、宝物館には若い幽霊の絵馬がある、と説明板にあった。
線香立てがあり、段を6段登っていく。入り母屋に千鳥破風をつけ、さらに唐破風をつけた複雑な屋根。赤い長提灯か下がっている。しとみ戸は真ん中の戸が下部だけが開いている。
般若心経を唱え、キョロキョロしていた。本尊の真言を唱えるのだが、真言を忘れていて、どこかに書いていないか探していたのだ。すると、納経所の女性が「真言ですか?」と聞く。「はい」と答えると、「オンバザラタラマキリク」と教えてくれた。親切な人だった。話のきっかけができたので、説明板にあった幽霊の絵馬のことを聞いた。
「今、朝がたは、まだお寒うございます。本格的な夏になりませんと……」。まるで怪談でも話すように、ゆったりと、語尾をひっぱりながら言う。ドロドロという音が聞こえてきそうなくらいに。何と粋な対応。「8月22日と23日(その年だけだったかもしれないが)は、本堂にお出ましになる」
「何で怖そうに言うの」と、思わず言ってしまった。幽霊は円山応挙の弟子が描いたらしい。絵はがきを出して説明してくれ、結局500円で買うことになった。寺を出る時、「お待ちしています」と、ゆったりした声が背中で聞こえた。ひょっとすると、幽霊の声だったのかも。(梶川伸)2017.08.19
更新日時 2017/08/19