寺の花ものがたり(84) 椿寺地蔵院(京都市北区)五色八重散椿=3月下旬~4月上旬
豊臣秀吉は天正15(1587)年、京都・北野天満宮で大茶会を開いた。この寺は宿舎の1つになった。その礼にと、秀吉が寺に贈ったのが五色八重散椿(ごしきやえちりつばき)だという。残念ながら、初代の木は1983年に枯れてしまった。住職の伊藤史郎さんは、木の最後のころの姿を見ている。「大きくて立派だった」
西大路ができて、木は道路のそばに立つことになった。ビルも林立して、地下水の流れが変わった。「年をとった木だったが、空気の汚れや水も影響したのかもしれない」と残念がる。
今の木は、「挿し木で育った」と推測される2代目である。2代目でも、110年ほどになるようだ。
字の通り、1本の木にいくつもの色合いの八重の花が咲く。濃い紅色、薄紅色、白。斑入(ふい)りは紅が勝ったもの、白が勝ったもの。花ごと落ちるのではなく、花びらで散る。「厳密に言うと、5割ほど」らしいが。
先代住職が、挿し木で3代目作りに腐心した。しかし、なかなか五色にはならないのだと言う。「1割か2割か」。その若い木も、境内に根付いた。
「満開より、散り始めた時の方がいい」と勧める。杉苔(すぎごけ)の上を五色の花びらが敷き詰めると、倍の華やかさとなる。
美しく咲かせ、美しく散らせるために、努力と工夫をする。「10月から11月に花芽が出る。全部残すと、花が小さくなるし、木も弱る。気分的には半分を摘む」。半分はオーバーだが、取った芽は30×30×15センチの箱に一杯になるそうだ。
この椿にまるわる面白い話を聞いた。「昔は痔(じ)にご利益があると言われ、祈祷(きとう)がよく行われたようです。今でも年に1~2件」。狭い境内に椿大神がまつってある。その前で般若心経(はんにゃしんぎょう)を唱える。神仏習合の名残である。(梶川伸)
◇椿寺地蔵院(つばきでらじぞういん)◇
京都市北区大将軍川端町2(一条通西大路東入)。075-461-1263。京都駅などからバスで北野白梅町下車、徒歩5分。境内自由。奈良時代に行基が摂津に建てたのが始まりと伝えられる。本尊は五劫思惟(ごこうしゆい)阿弥陀如来。長い修行の間に髪がアフロヘアーのようになった像。
=2005年2月16日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)日2017.02.09
更新日時 2017/02/09