編集長のズボラ料理(221) ブロッコリーの豚肉巻き焼き
毎日新聞の記者として若いころ、徳島市で勤務したことがあった。会社によく顔を見せるOBの大先輩がいて、よく豚カツをごちそうになった。
大先輩は戦地から復員して間もなく、東京で豚カツを食べた。その味が忘れられないと、何度か話した。大先輩にとって豚カツは、平和の象徴の味だったのだろう。
大先輩と知り合ったのは、戦後40年近くたっていた。その時期でも、しばしば豚カツを食べに行き、たまに僕も誘ってもらった。「いい店があったら教えてほしい」というのが口癖だった。
僕はその期待に応えた。会社で会うたび、人気店や新しい店の情報を伝えた。すると「食べに行こう」となる。新聞社は時間にルーズだし、大先輩の誘いでもあるので上司は文句を言わず、仕事時間中にも食べに行き、おごってもらった。情報だけで豚カツが食べられたのだから、平和はありがたい。
気のいい大先輩だったので、お願いごともした。毎日新聞の部数を拡張する運動が社内であった。写真が自分の知り合いに新聞の購読を頼み、オーケーが出ると、その人の住所や名前を書いたカードを販売の担当部門に提出する。
僕は大先輩にも、購読者の紹介をお願いした。すると5人の名前が届いた。名前などをカードに書いて提出した。しばらくして、担当部門から問い合わせがあった。5人のうちの1人がおかしい、という。理由を聞いて大笑いした。その人は毎日新聞の販売店の経営者だった。
担当者が新たな購読者を販売店に連絡すると、当の本人だったというわけだ。そのことを大先輩には伝えなかった。そんなことで、平和を乱してはいけないからだ。
豚カツの限らず、豚肉は好きだ。まず、牛肉よりも安い。大阪特有の1人用シャブシャブでも、牛肉より100円ほど安い豚肉の方が人気だ。薄切りの豚肉も使いやすい。何でも巻いてしまえばいい。
そこで巻く。ブロッコリーを適当に切り分けて軽く塩ゆでし、塩、コショウをふる。豚肉の薄切りか切り落としで、ブロッコリーの茎の部分を巻く。フライパンに油をひいて、回しながら焼く。茎に火が通りにくいと思ったら、途中でふたをして蒸し焼きにし、最後はふたを取って焼く。
ケチャップでもソースでも、好きなものをかけて食べる。平和について考えながらだと、大先輩も喜ぶに違いない。(梶川伸)
更新日時 2016/09/25