寺の花ものがたり(68) 善峯寺(京都市西京区)の秋明菊=9月下旬~10月下旬
広い境内は花が絶えない。春は梅から始まって桜へと移っていく。牡丹(ぼたん)、紫陽花(あじさい)、高砂百合(たかさごゆり)と続き、秋明菊(しゅうめいぎく)、紅葉、南天、山茶花(さざんか)と、花の季節は巡る。
「いつ来ていただいても、ほっとしてもらえるように」。副住職の掃部(かもん)光昭さんは、花への思いを語る。
庭は大正時代の末に、庭師の小川治兵衛が整備した。西方浄土をイメージして造られたと言う。「起伏の激しい境内だが、左右の花や刈り込みを見て、楽しみながら登っていける」。そんな狙いがあったと説明する。ただし、「植物園ではなく、宗教観のある植物の園として」と付け加える。
秋明菊は3種類が点在、群生している。赤紫の八重の種類は、自生していた。「石積みの間でも生える。石垣を掃除しては引っこ抜き、あちこちに植えた」。そのうちに、境内に広がった。強い花だが、「晴れやかて、品位もある」と、魅せられているようだ。
白とピンクの一重の花は、住職で父の光暢(こうちょう)さんが、四半世紀前に東北地方に出かけた折に購入してきた。それぞれ小さなポットに15個ずつ。それが広がっていった。
花を絶やさない努力は、光昭さんも同じだ。杉と桧(ひのき)の陰になっている場所があった。何を植えるか、京都・大原の三千院に相談した。紫陽花を教えてもらい、二十数年前に3000株を植えた。さらに別の場所に5000株を植え、いまでは1万株を数える。「陰ではブルーの花が多くなるのに、ここではピンク系もたくさんある」。選択は正しかったのだろう。
カメラで境内の花を撮り続けている。花だけでなく、寺の景観も入れる。植物園の花にならないように気を遣いながら。浄土の庭だからである。(梶川伸)
◇善峯寺(よしみねでら)◇
京都市西京区大原野小塩町1372。075-331-0020。JR向日(むこう)町、阪急東向日駅から善峯寺行きバス(便少ない)。入山有料。平安中期に源算上人が開山。本尊は十一面千手観音。西国観音霊場第二十番札所。
=2005年10月6日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2016.09.23
更新日時 2016/09/23