寺の花ものがたり(65) 神照寺(滋賀県長浜市)萩=9月上旬~下旬
幅2メートルほどの参道が、本堂に向けて200メートルほど真っ直ぐに伸びている。その両側を萩(はぎ)が覆う。境内のいたる所にも、萩の茂みがある。住職の岡本承善さんによれば、その数は13品種、1500株、2万本に及ぶ。
数字だけではピンとこないが、花が終わった後の手入れを聞くと、量の多さに驚く。11月にすべて刈り取る。草刈り機を3~4機使う。軽トラックに積むと、50台にもなると言う。
萩と寺との因縁に、室町幕府の足利尊氏(あしかがたかうじ)が登場する。尊氏は弟の直義と不仲だった。2人が和議のためにこの寺を訪れた際、萩を植えたと伝えられている。
岡本さんは子どものころから、萩に親しんできた。隠れんぼをする絶好の場所だった。戦時中に敵機が飛来すると、子どもたちは近くの学校から萩の森の中に逃げ込んだ。
毎年、9月7日から25日までを、「はぎ祭り」と名づけている。長浜と言えば盆梅が有名だ。冬以外にも花がほしいと考えて、ゆかりのある萩に結びつき、手を加えていった。祭りはもう30年にもなる。
「稲穂のようにこうべを垂れ、最敬礼をしてくれる」と、親しみを込めて萩を語る。悩みは、十分な散水の設備がないこと。「夏場は4日か5日に1度、夕立でもいいから、おしめりがほしい。10日も雨がないと、しおれてしまう」
こうべを垂れすぎると、支柱を施す。「真夏に土が乾燥していると、くいが入っていかん。雨が降ったら、パッと打つ」
心配ごとはほかにもある。ミノムシがつきやすい。「夕方にはい出して、柔らかい新芽を食べる」。これは取る以外にない。
数が多いということは、見えない苦労も多いということだろう。(梶川伸)
◇神照寺(じんしょうじ)◇
滋賀県長浜市新庄寺町323。0749-62-1629。JR長浜駅から養護学校行きバスで神照寺前下車(便少ない)。土日祝はレトロバスが便利(1日乗車券500円)。祭り期間中は入山有料。寛平7(895)年に宇多天皇の勅命で創立。本尊は大日如来。国宝の華籠(けこ)がある。
=2005年9月15日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることもありますので、ご了承ください)2016.09.01
更新日時 2016/09/01