寺の花ものがたり(61) 石峰寺(京都市伏見区)高砂百合=8月中旬~下旬
お盆のころに、高砂百合(たかさごゆり)が本堂を囲むように咲き誇る。清らかな白い花には、戦争の記憶が込められていると、阪田良介住職の母育子さんから聞いて驚いた。
台湾で戦死した兵士の遺族が台湾から持ち帰った種を、先代住職が境内に植え、いつの間にか広がったのだと言う。先代の両親が台湾にいたことがあり、そのことが寺と高砂百合を結びつけたようだ。
「そんな話をすると、心ひかれる人も少なくない。きれいな花だし、種がほしいと言う方もいる」。寺を中継点にして、戦争の記憶はあちこちに広がったと言っていい。
最初は種を集めておいて、申し出があれば分けていた。「いまはプランターで少し育ててから、差し上げる」。芽が出てしばらくは、百合らしい葉ではなく、雑草と間違えて抜いてしまうことがあるからだ。
本人も同じ失敗を何度かした。強い花で、あまり手入れをする必要はないが、「草引きには気を遣う」そうだ。山野草が好きで、境内を四季の花が彩る。その世話は育子さんの役目である。「寺の仕事は水やりと草引き」と話して、「真っ黒でしょう」と、日焼けした顔を指して笑う。
境内の百合は種が飛んで増えていった。芽が出でしばらくすると、百合根が育つまでいったん成長を止める。つぼみは最初は先が天を向いて立っている。やがてつぼみは寝るように横になり、ふっくらとしてきて、赤みがかっただいだい色の筋が入り、最後に真っ白く開く。一つ茎には多いと、10個もの花をつけることがある。
白い花は、戦争とは正反対の趣がある。しかし、話を聞いた後では、つぼみの赤みがかった筋が、悲惨な色に見えた。(梶川伸)
◇石峰寺(せきほうじ)
京都市伏見区深草石峰寺山町26。075-641-0792。JR稲荷、京阪深草駅から徒歩10分。拝観料300円。宝永年間(1704~11)、千呆(せんがい)禅師によって建立。本尊は釈迦如来(しゃかにょらい)。伊藤若冲(じゃくちゅう)が下絵を描いた五百羅漢(らかん)の石像がある。
=2005年8月18日に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2016.08.04
更新日時 2016/08/04