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寺の花ものがたり(55) 安国寺(兵庫県豊岡市)夏椿=5月中旬~7月中旬

2005年5月28日撮影

 沙羅(さら)とも言うが、住職の真田義永さんは夏椿(なつ・ばき)の言い方を好む。「和名らしい感じがする」と。
 山門の前に5本の木が植えてある。1番大きいものでも高さは3メートルあまりだが、次々と白い花をつ、期間を通じれば1000にもなると言う。
 「派手さはなく、清楚(せいそ)でひそやかなところに心打たれる。はかない一日花。仏教とも通じるので、寺の庭に好んで植えられる」
 門の前の木は、約300メートル南の寺谷にあったものを移植した。寺谷は旧安国寺があった場所だ。「ここにも植えられていたんでしょう」。旧安国寺は消失し、300年ほど前に現在地に移った。
 寺谷は森となり、夏椿の群生地になった。数十本の大きな木のほかに、実が落ちて生えた若いものまで含めると、「1000本はあるのではないか」と推測する。自然の中で育っている風情がいい。花も大きく開き、のびのびとしている。
 大きな木には、「象徴樹」「尋承樹」などと命名し、名札をつけていった。「夏が厳しい干ばつだったり、台風に見舞われたりすると、木も子孫維持の危機を感じて、実をたくさんつけるために花が増えるような気がする」。夏椿を見守ってきた感想を語る。
 「夏椿は、雨や曇の日、朝夕がいい。日差しが強いと、白が映えない」。写真が趣味のためか、そんな感性でとらえる。
 この時期は、本堂の裏庭にある満天星(どうだんつつじ)の木にモリアオガエルが生み付けた卵塊も被写体になる。多い年には、50を超える。卵塊からは300~500匹のオタマジャクシが生まれ、やがてカエルとなり、森に帰っていく。そんな写真も見せてもらった。真っ赤に燃えた満天星の紅葉のショットも。(梶川伸)

◇安国寺◇
 兵庫県豊岡市但東町相田327。0796-54-0435。JR豊岡、八鹿、江原の各駅からバスで小谷(おだに)下車、徒歩10分(便少ない)。境内自由。足利尊氏(あしかがたかうじ)が夢窓疎石(むそうそせき)の勧めによって全国に建立した安国寺の1つ。
=2005年7月7日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性がありますので、ご了承ください)2016.06.04

更新日時 2016/06/04


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