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寺の花ものがたり(49) 多聞寺(神戸市垂水区)杜若=5月上旬~下旬

2005年5月9日撮影

 いずれが菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)。2つの花の見分けは難しい。それに花菖蒲(はなしょうぶ)でも混じろうものなら、ますますややこしい。
 「杜若は葉っぱがツルツルで、葉脈が見えへん。葉っぱの先っぽが拝み合う」。住職の齊川観弘さんに教えてもらった。心字池を埋める3000株もの杜若を、しばし眺める。葉はスッと伸び、どれも先端がほんの少し曲がっている。「拝み合う」の表現が、いかにも似つかわしい。
 説明が続く。「花は葉と同じ高さで、控えめで清楚と好まれる」
 開祖、慈覚大師が平安時代に中国から持ち帰り、沼地に植えたと伝えられる。生命力が強いのだろ、命は続いている。
 1947年に住職になり、2回だけ池の土を掘り起こして植え替えをした。古い根を取って、新しい芽を植える。はびこるヨシを取り除く。毎年の手入れは、花が終わった後にお礼肥えをするくらい。「虫はつけへんし、結構や」
 1つの茎は、時期を置いて2度花をつける。一番花が咲いたあと、花がらを取ることはしない。池だから、取れないという理由もある。葉と茎は立ち枯れにし、それが肥料にもなる。
 阪神大震災の時は、池に幅15センチほどの亀裂が走った。「土を入れよう」との提案もあったが、「自然に埋まる」と言って退けた。2年間は花のつきが悪かったものの、元に戻った。
 夏には水が枯れ、土にひびが入る。そのおかげで、「空気が供給される」と解釈する。寒が終わると、地下水が流れ込んで水を含み、花を育てる。
 基本は自然任せである。それでも咲き続ける。「ここの気候、風土、地味に合っている」と考えている。だからこそ、自然の力を大事にしている。(梶川伸)

◇多聞寺(たもんじ)◇
 神戸市垂水区多聞台2。078-782-4445。JR舞子駅か神戸市営地下鉄学園都市駅から、神戸市バスの54系統で多聞寺前下車、すぐ。境内自由。貞観2(860)年、清和天皇の勅願で創建されたと伝えられる。本尊は毘沙門天(びしゃもんてん)で秘仏。本堂は江戸中期に再建された。
=2005年5月19日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2016.04.21

更新日時 2016/04/21


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