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寺の花ものがたり(48)金剛三昧院(和歌山県高野町)石楠花=4月下旬~5月中旬

2005年5月8日撮影

 日本石楠花(しゃくなげ)なので、花の色は淡い。境内の山肌に沿って枝を広げている。山肌を覆っている、と言ってもいい。花のシーズンには日記をつけるように写真を撮っているという僧の峯野隆彰さんは、「千単位の木がある」と誇らしげに言う。写真に収めるのは、咲き具合の問い合わせが多いからだ。
 花が咲き切ると、翌年にそなえて、実ができる前に摘む。クレーンを使って、5人で3日かかると言うのだから、規模の大きさに驚く人は多い。
 中でも目を見張るのは、樹齢350~400年と推定される古木だ。高さは8㍍前後。支柱の助けを借りながらも、幅は15~20メートルにも広がる。1934年に、和歌山県の天然記念物に指定された。
 「つぼみはほんのり濃いピンク。やや薄くなって花びらを開き、やがて白くなる。遠めに見ると、ピンクのグラデーション。それが日本人の心をくすぐる」。
 しかし、木の体力もあり、年によって咲く数に差がある。峯野さんの経験則では、3年に1度はピンクの山と咲き、時には葉が見えないほどになるとか。その代わり、「あとの2年は休む」そうだ。
 雪が降るころに花芽がつく。雪が溶けると膨らんでくる。「きれいな緑なので、さわりたくなるが、手で触れると咲かない」。繊細な植物の生理を感じる。
 もちろん、花の時期は美しい。しかし、冬の石楠花も好きだと言う。普段は水平に開いている紡錘形(ぼうすいけい)の葉が、雪にそなえて傘のように下を向く。積もりにくいように防御するのだろう。
 「柔軟性のある木なので、雪が積もっても、枝を曲げて垂れ下がるが、折れることはない」。じっと耐えて、葉を伸び伸びと広げる春を待つ。(梶川伸)

◇金剛三昧院◇
 和歌山県伊都郡高野町高野山425。0736ー56-3838。南海極楽橋からケーブルカーで高野山駅へ、バスで千手院橋下車、徒歩10分。境内自由。建暦元(1211)年、源頼朝の菩提ために、禅定院として創建。金剛三昧院と改称、密教、律、禅の3宗による学風を発揚した。多宝塔は国宝。
=2005年5月12日の毎日新聞に掲載したものを再掲載

更新日時 2016/03/31


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